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トランプの「メイク・ディール」に翻弄される日本

「米国が一番」の意味を考える
トランプの「メイク・ディール」に翻弄される日本

トランプ公式サイトより


米国の強さの主因は「有能な移民」


 「米国第一」の政策のオンパレードだが、具体策はまだ示されていない。前述のように、トランプ大統領の就任演説では、米国の暗い側面が強調され、その側面はワシントンをはじめとする既得権層が招いた、との批判が込められている、と欧米紙などが分析している。

 同大統領は23日、TPP離脱の大統領令に署名。米国のTPP離脱が現実なった。大統領選の時と同様な、アジテーション気味の政策表明だが、その公約を「即実行」している。

 米国は93年ごろから始まったインターネット時代を先導し、IT、ICTで先端を走り、現在では生命科学、ロボット、人工知能(AI)、自動運転、航空宇宙といった分野でも先頭集団を率いている。

 こうした米国の強さの主因は、有能な人材を引き付ける「磁力」にあった、と思われる。米国の磁力に引き付けられた有能な移民が米国の豊かな社会づくりに貢献したことは歴史が証明している。

 この磁力があるからこそ、不法移民の流入も相次ぐ。そうした移民はカリフォルニアなどでの農業労働や危険な作業、低賃金労働などを担う。

 移民は、米国の繁栄の「エンジン」ではなかったのか。1990年代の中ごろ、米国駐在を離れる際に、息子が通っていた小学校の20代の女性の担任教師が「いつでも戻ってらっしゃい」と言ったのが忘れられない。「米国が一番」といった矜持に満ちていた。

TPPの内容は「最低条件」


 トランプ大統領の就任演説を聞き、その後のトランプ政権の動きを見ると明るい気持ちにはなれない。トランプ政権は、日本に「TPPを批准したようですから、それをベースにして、二国間の自由貿易協定を結びましょう」と交渉してきそうだ。23日には中国と同様、日本との貿易も「不公正」と貿易赤字是正を求める姿勢を鮮明にした。

 米国はたぶん、日本の批准したTPPの内容を「最低条件」として、農産物などの大幅関税引き下げを求めてくるだろう。日本は、トランプ大統領の好む「メイク・ディール(取引交渉)」に対する間合いをどうすればいいのかをまず考えるべきではないのか。
(文=客員論説委員 中村悦二)
日刊工業新聞2017年1月26日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
24日にはGMなど米ビッグ3のトップと会談したトランプ氏。米国内での新工場建設を要求。一方、同じ日にトヨタはインディアナ工場に約680億円投資し、約400人を新規雇用すると発表した。トヨタは今回の投資について「米国で持続的成長に取り組んでいく姿勢を象徴するもの」としている。個別企業レベルでも「メイク・ディール(取引交渉)」がおこっている。 一方でアーミテージ元米国務副長官が日米関係で一番カギを握る存在と指摘したマティス国防長官の最初の外遊先が日韓になった。経済だけでなく安全保障面でいかに日米関係が重要かを、トランプ政権内でも醸成していく努力が必要だろう。 25日の米株式市場でダウ工業株30種平均が一時、史上初めて2万ドルを突破、トランプ相場はまだ続きそうだが、いずれ揺り戻しが必ずある。

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