シャルル・ジョルダン日本参入の仕掛け人が語るブランドビジネスのすべて
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マスターライセンシーの変遷
―海外のブランド企業と交渉し、複数の商品を束ねて契約する元請けのような存在の企業を「マスターライセンシー」と呼ぶ。
「1980年代から90年代にかけては百貨店及び商社がマスターライセンシーとなって海外のブランド企業と複数の商品群をトータルでカバーするマスターライセンス契約を締結し、商品に応じてそれぞれの専業会社とサブライセンス契約を締結するという形態も見られた」
「この場合、往々にして、マスターライセンシー会社は、ライセンサーが販売するインポート商品に関しても輸入・販売契約を締結し、ブランドのトータルなマーケティングを目指した。しかし現在は、ブランド側や市場側のニーズも変化しているため、マスターライセンシーを必要とするビジネスは少なくなっている」
こうした背景には、ファッション企業自らが現地法人を立ち上げて各地のローカル市場を管理するようになってきたことや、日本の所得水準が伸び悩み節約志向が強まっていること、ファストファッションなどと呼ばれる安価な衣料品を提供する製造小売り企業が台頭していることも影響していそうだ。
M&Aはブランド力だけでは成功しない
―ライセンシーがライセンサーを買収するケースはあるのか。
「外国ではわりとよくある。ファッション業界では、買収の対象はライセンサーの会社ごとまたは部門やブランド単位というパターン。食品業界だと会社の規模が大きいので、部門や事業単位でなされることが多い。日本では、バーバリーやアクアスキュータムなどと並ぶ英国王室御用達ブランドのダックスと三共生興が成功例だと思う」
一方、同じようにレナウンが1990年に英アクアスキュータムを買収したものの、ブランド戦略を間違えたのか、赤字が続き、最終的にはレナウン自身も経営不振に陥って2009年に同ブランドを売却している。その後、アクアスキュータムは2012年に経営破綻。同等のブランド力があっても、マーケティングや海外展開の手法を間違えると、その行く末は全く異なる。まるでクロスボーダーM&Aの難しさを物語っているようだ。>
「80年代に日本の企業がフランスのファッション企業を買収したケースがあったが、成功した事例をあまり聞かない。言葉の壁だけでなく、労働環境、文化の違いに対応する人材が育っていなかったかもしれない」
「現在、フランスの中小企業は全体的に財政面が逼迫し、新たな投資を必要としている。特にファッションブランド企業は、製造をアウトソーシングし、自社が抱える正社員も比較的少ない。日本の企業にとって、買収のチャンスといえるかもしれない。しかし、派遣する人材、ブランド活性化のコスト、トータルの投資とボトムライン(収益)を考え、積極的に買収をする日本企業は少ないようだ」
ブランドビジネス、今後の展望は?
―1980年代~2000年代は、ファッション業界でのライセンス契約やインポート契約も盛んで、ブランドビジネスに活発な動きがあった。今、こうした動きがあまりないのはなぜか?
「消費者が変わってきた。本当に付加価値があるものを見極めるようになって、より賢くなっているのでは? ただブランドがついているだけのものは、今の時代を生き残ってはいけない。企業側もそこを厳しくチェックしているから、動きが鈍くなっているのかもしれない。ただし、今は飽和状態でも、ブランドビジネスはなくなることはないだろう」
伝統的なライセンス契約からの脱却
―ピエール・カルダン氏がブランドビジネスを始めた1960年代の第1ステージ、ブランドホルダーがマーケティング会社のようになっていった2000年代初めまでの第2ステージ、そしてブランドホルダーが自社で全てをコントロールする現在の第3ステージと移り変わってきたブランドビジネス。今後、具体的にどのような形で残っていくのか。
「これまでのような伝統的なライセンス契約ではなくなり、株を持ち合うなどビジネス・ファイナンシャル・パートナーとしてリスクを共有した形になる可能性は十分ありうる。その場合ももちろん、哲学やパッション(情熱)、カルチャー(文化)の共有は必要。これが欠けてしまうと上手くいかないだろう」
(取材・文:M&A Online編集部)
M&A Online2017年01月14日