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日産ゴーン社長、自動運転は「馬車が車に置き換わったのと同じスケール」

連載「モビリティーの未来」(上)
日産ゴーン社長、自動運転は「馬車が車に置き換わったのと同じスケール」

トヨタ自動車がCESで発表した試作車「コンセプト―愛i」

 自動運転技術の開発が、自動車業界に大きな変革を促している。自動車メーカーやIT大手はクルマを操る人工知能(AI)開発にしのぎを削り、頭脳や手足にあたる部分では半導体・電機メーカーの台頭が激しい。運転手のいない完全自動運転車の実用化が2020年代にも期待される中、各社の「競争と協調」が加速する。

自動運転でも最後は人が介在


 「自動車産業には今後10年で過去50年を上回る変化が起きる」。5日、米ラスベガス。家電見本市「CES」で基調講演した日産自動車のカルロス・ゴーン社長はこう切り出した。自動運転、車両の電動化、「つながる車」―。これらの技術革新は「馬車が自動車に置き換わったのと同じスケールの変化をもたらす」とみる。

 中でも実用化を急ぐのは自動運転。日産は20年に市街地で自動運転を実用化する目標。DeNAと組み、運転手のいない「無人運転車」の実証実験を17年に日本で始める。

 米航空宇宙局(NASA)の技術をベースとする「シームレス・オートノマス・モビリティ(SAM)」と呼ぶ技術も開発した。車載AIが判断に迷ってクルマが停止した際などに、遠隔地から人が支援してAIの学習を助ける。最終的に人が介在する仕組みを残すことで、自動運転の実用化の壁を取り払う考えだ。
報道各社の質問に答える日産自動車のカルロス・ゴーン社長


トヨタやホンダがAI搭載車を発表


 AIは今年のCESの主要テーマだった。ゴーン氏の基調講演の前日、会場ではトヨタ自動車がAI搭載車を発表。名前は「コンセプト―愛i」だ。豊田章男社長が頻繁に口にする「車は『愛』がつく工業製品」を体現。「Yui」という車載AIが運転手の表情や動作などから感情や好みを推定し、語りかけたり、眠気を取り払うために五感を刺激したりする。

 「人を理解するクルマ」との視点は日本車メーカーに共通する。ホンダもAI搭載車「NeuV」を発表。ホンダの研究開発子会社・本田技術研究所の松本宜之社長は「このクルマは人から学ぶ」。運転手の感情理解だけでなく、自らライドシェア(相乗り)に行き、お金を稼いでくる。

時間の活用もポイントに


 海外メーカーの間では自動運転で生まれる車内での時間活用を提案する動きも広がる。独BMWはCESで内装中心の試作車を展示し、搭乗者それぞれに異なる音楽を聴ける仕組みを訴求。欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズも「ミレニアル世代」と呼ぶ若年層向けの試作車を発表し、車内の居住性を訴えた。

 トヨタのAI研究子会社であるトヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)は「時間は最も大切な資源」と、車内での過ごし方をさらに研究する考え。自動運転車やAIの開発は、内燃機関などに重きを置く自動車産業の競争軸を変える可能性がある。

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日刊工業新聞 2017年1月17日、1月9日を再構成
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 CESに主要な自動車メーカーが参加するようになって数年。翌週のデトロイトモーターショーとのすみ分けも進んでいるように感じます。つまりCESは「近い将来の技術=AIやIoT」を発表する場で、デトロイトは、それよりも近い「今年や来年の技術=新型車」を発表する場ということ。  ただ今回はウェイモ(グーグル)がデトロイトで完全自動運転車を公開するなど戦略の違いも見られます。シリコンバレーのスタートアップ企業の出展が多いCESと、ビッグスリーなど伝統を誇るデトロイトショーは地理的にも離れており、展示会同士の綱引きという要素もありそうです。

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