「合体」する家電。市場創出か食い合いか
消費者、実用性やデザイン重視。ダイソンvs日本
異なる価値で食い合い避ける
一方で家電メーカー各社には懸念もある。単なる多機能化ではない家電製品の合体は、社内で市場の取り合いになる可能性があるためだ。
例えば、冷暖房機能付きの空気清浄機が普及すれば、機能として重複してくるエアコンの需要は減り、淘汰(とうた)されてしまう場合がある。従来製品の商習慣などもあるため、企業としては製品の統合を進めれば良いというわけではない。
そのため、合体家電には市場創造や高い付加価値を生むインパクトが求められる。メーカー各社はAIやIoTを駆使する合体のあり方も模索している。物理的な合体でなくても、ネットワーク上でつながることで思わぬ機能を発揮する家電もある。
「煮る・焼く・蒸す・揚げる」−。シャープはオーブン「ヘルシオ」に調理機能を集約している。さらに同社の冷蔵庫と連携すれば、賞味期限が迫る野菜を選定し調理方法を紹介することも可能だ。
今後は「ホームアシスタント」と呼ぶ各家電に指令を出すロボット家電を開発する。家電のリモコンを統合させることで連携を促進させる。冷蔵庫のほか、テレビやエアコンをリモコンなしで一括管理・操作ができるという。
「まだ解放すべき作業が家庭にはある」
現在、モバイル型ロボット電話「ロボホン」で培った声紋認証技術の応用を検討している。「温度を下げて」「レシピを教えて」と音声で手軽に操作できる家電がシャープの目標だ。
また、パナソニックは16年に家電のスマートフォン操作を中心とした「スマ@ホームシステム」などホームセキュリティー家電を投入した。ドアホンやホームカメラなど各製品群をネットワークでつなげ、新しい家電のカテゴリーを創出する。
河野明コンシューマーマーケティングジャパン本部長は「共働き世帯や高齢者の単身・2人世帯など少人数世帯の増加からセキュリティー家電のニーズがある」と説明。社会的な要請が新たな家電を生み出すきっかけになった。
さらに同社の中島幸男常務は「AIやIoTによって調理家電、掃除家電でそれぞれ一体化が進むかもしれない。中には家具なども含まれるだろう」と家電の未来形を見据えている。
7Dの阪根信一社長も「市場が成熟化しているとされているが、トイレ掃除や風呂掃除などまだまだ解放すべき作業が家庭にはある」と新しい家電が登場する可能性を示唆する。
生活を変えるほどの家電はこれから先も価値を帯びるだろう。そして、AIやIoTと家電の組み合わせは従来の多機能化とは異なる価値を生み出す可能性がある。日本の家電は「オーバースペック」と言われてきたが、突き抜けた多機能化・高機能化がここに来て結実しそうだ。
成熟でも出荷伸びる
日本電機工業会(JEMA)の調べでは、15年度の国内出荷金額は前年度比5.7%増の2兆2475億円と2年ぶりのプラスで、16年度も増加する見通し。「成熟化した家電市場は多機能・高機能化した高価格製品が多く、実際、出荷台数が横ばいのまま、出荷金額は伸びている」(JEMA家電部調査統計課)と説明する。
消費者は多数の家電を購入するよりも機能が集約された家電を選ぶという傾向がでている。合体家電は、家事の効率化や「時短」を促し、余暇時間の創出や快適な暮らしを生み出す。さらに生活シーンを変える家電であれば、高い価格を勘案しても合理的な選択と言える。
(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2017年1月10日