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石油元売り再編、急展開。未来への合併メリットとは

公取委承認で合併へ本格協議。かじ取りには多くの苦難も

初めて石油と石油化学の一体化


 ―石油の使い方(ノーブル・ユース)が今回の業界再編にどう影響を及ぼすのでしょうか?
 ノーブル・ユースの一番の典型例は化学の原料として使う、つまり石油から石油化学製品をつくるということです。ここからようやく話がつながってくるのですが、石油をつくるリファイナリー(製油所)とエチレンセンター(ナフサ分解工場)などの化学製品をつくるケミカルプラント(化学工場群)が一体運用されているとよいわけです。

 実は、JXは今まで日本最大の石油会社でありながら、どのリファイナリーもケミカルプラントとつながっていませんでした。最大の製油所は根岸(神奈川県)にありますが、ケミカルプラントは川崎(同)にあり、近そうですがこれはパイプでつながっていない。

 それが東燃ゼネラルと一緒になるとどうなるかというと、川崎には東燃ゼネラルの製油所もケミカルプラントもあるし、JXのケミカルプラントもあるので、ノーブル・ユースに最適な石油と石油化学の一体化が、初めてこの統合でできるようになります。
              


「袖師(そでし)」という場所


 ―単なる規模の経済とい言いますか、シェア拡大を狙ったM&Aではないのですね。
 もう一点、東燃ゼネラルの側から見た可能性をお話しします。東燃ゼネラルはこれまできちんと過剰設備のリストラをやってきた企業です。その中でだいぶ前に畳んだ清水の製油所の跡地がありまして、そこで静岡ガスと取り組んで天然ガスのタンクをつくっています。

 地名は「袖師(そでし)」というのですが、そのタンクの上に立つと驚くべき光景が広がっていまして、50ヘルツの東京電力の送電線と60ヘルツの中部電力の送電線が足元に見えます。ちょうど周波数の変換所が近くにあるんですね。後ろを振り返ると駿河湾なんですが、深海魚がいるくらい日本で最も深い湾なんです。

 深いということは、QMAX(Qはカタールの頭文字。世界最大級のLNGタンカーを指す)クラスのLNG(液化天然ガス)タンカーが着桟できるのです。そのような港は国内で大分ぐらいしかないんです。千葉沖とか伊勢湾も大型のLNGタンカーを着けることはできますが、混んでいます。

 そういう意味でいうと、駿河湾の立地と何よりも東燃ゼネラルが製油所を畳んだから土地が余っている。そこに送電線来ていますから、LNG火力発電所をつくると、電力自由化の時代にとても競争力のある50ヘルツにも60ヘルツにも送電できる施設を持つことが可能となるのです。

 ―JXと東燃ゼネラルが組むことによって、1+1=2以上になる。まさにM&Aによるシナジー効果ですね。
 異なる周波数帯をカバーするという問題では、日本海側の新潟県上越市にも双方の周波数の送電ができる発電所がありますが、その太平洋側の存在として期待できます。以前からこの計画はありましたが、東燃ゼネラルは規模が小さく、お金もあまりないし人も割けないことから、実現できませんでした。

 また、最終的に中部電力と送電線をつなげなければいけないのですが、交渉力も弱かった。それがJXと一緒になるとお金・人・交渉力が一気にアップします。

 ―ガソリンの需要が減るなど、元売り各社は経営面での合理化が進められていますが、この経営統合によって新しい可能性が見えてきますね。
 一般に市場縮小に伴う守りの合併だと思われていますが、石油と化学が一体化されるとか、静岡でLNG火力発電ができるというのは、M&Aをやって初めてできる進歩なんです。それが今回のJXと東燃ゼネラルの統合です。

製鉄業界のM&Aとは似ていない


 ―同じ石油元売り会社の経営統合ですが、目指す方向性が全く異なることに驚きました。
 普通言われている、生き残りを目指した後ろ向きのM&Aではないと思うんです。大手メディアはそういっていますが。国内を目指すJX・東燃ゼネラルとアジアを目指す昭和シェル・出光とが、すみ分けができるようになる。

 今回の石油業界の経営統合は、製鉄業界のM&Aに似ているね、といわれているんですが、ちょっと違います。昔6社あった鉄鋼大手は、今は新日鉄住金とJFEホールディングスですよね。これはわりと似た者同士の会社が二つできて切磋琢磨して世界で頑張っています。

 ―今後の日本の石油業界はどうなりますか?
  内向きのJX・東燃と外向きの昭和シェル・出光という二手に分かれるんじゃないかなと思います。いずれにしてもM&Aが非常に大きな契機になっている。それが石油業界の今後ですね。 若干電力自由化に関わるのですが、それとは別の動機でM&Aが進むと見ています」

M&A Online2016年04月29日


※内容は当時のもの
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
公取の承認が前進とは限らない。それでも「大変だ、難しい」と一辺倒より以前、掲載した橘川教授のインタビューをもう一度読み直してみたい。

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