石油元売り再編、急展開。未来への合併メリットとは
公取委承認で合併へ本格協議。かじ取りには多くの苦難も
石油元売り業界の大型再編劇が、急展開した。公正取引委員会が出光興産による昭和シェル石油株取得を、独占禁止法に基づいて承認。これを受けて出光がロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)グループからの昭和シェル株買い取りに踏み切った。ただ合併に反対する出光の創業家の説得は容易でなく、先行き不透明感はぬぐえない。公取委はJXホールディングス(HD)と東燃ゼネラル石油の経営統合も承認したが、かじ取りには多くの苦難が伴う。
出光と昭和シェルの合併には、出光の大株主である同社の創業家が強硬に反対。両社は2017年4月を目指していた合併の無期限延期に踏み切った。
公取委の審査を通ったことで合併協議が本格化し、合併後の成長戦略が明確になれば、創業家への説得材料になると期待するが、創業家側の態度は硬く、翻意は容易でない。
昭和シェルも合併への道筋が明確でない中で、出光が同社の大株主になることに給油所(SS)や販売店が反発しかねないといったリスクを抱える。
「出光による株取得は、あくまでも一過性のもの」(広報部)だとして理解を求める考えだが、この状況が長引けば造反や系列からの離反が続出しかねない。
合併の早期実現に向け、出光が第三者割当増資によって創業家の議決権比率を下げるなどの厳しい決断を迫られる可能性もある。
一方、JXHDと東燃ゼネラルの先にも険しい道のりが待ち受ける。両社はそれぞれ21日の臨時株主総会で統合への承認を求め、17年4月に統合新会社を創設。国内のガソリン販売シェアが5割を超す巨大石油元売りとなる。
だが、経済産業省は国内の燃料油需要が、15年度からの5年間で8・4%縮小すると予想。この間、エネルギー供給構造高度化法に従って原油処理能力の削減などに取り組んできた元売り各社に、さらに踏み込んだ対応を指示する検討を進めている。
4月にニュースイッチでエネルギー業界の分析力で定評のある東京理科大学大学院・橘川武郎教授のインタビューを掲載した。その中では、出光興産と昭和シェル石油の合併メリットなどについて示唆に富む指摘がある。再編集してお届けする。
―昭和シェル石油と出光興産の経営統合はどう分析しますか。
まず意外な方から言うと、両社とも石油会社ですが、実は出光は大分県の滝上(たきがみ)で九州電力と地熱発電所をやっているし、新しく北海道でも実施しようとしているなど、地熱発電に熱心な会社です。それから青森県の六ヶ所村に蓄電池付きの最新鋭の大規模風力発電所を持っています。
以前に石原元都知事が熱心だったので、東京都では大きなビルに二酸化炭素の排出量の規制が掛かっているんですが、例えば、新丸ビルの電気は出光の風力発電所の電気を使っています。それと王子製紙の北海道の水力発電を使い、丸の内一帯のビルの電気を賄っています。つまり出光は地熱と風力に強い会社なんです。
―丸の内の高層ビル群は、出光の風力と王子製紙の水力というグリーン電力で賄われていたんですね。
そうです。一方の昭和シェルは、子会社に有名なソーラーフロンティアという会社を持っていまして、これは太陽光パネルの国内最大手なんですね。それから日本で一番大きなバイオ発電所は、昭和シェルの100%子会社が川崎で稼働しているわけです。
つまりこっちは太陽光とバイオに強いわけです。そうすると、「太陽光・バイオ・風力・地熱」と再生可能エネルギーそろい踏みになるわけです。
―環境保全の意識が高い企業や個人に需要がありそうですね。
固定価格買い取り制度(FIT)を使うと、電気を売る時に「完全再生可能エネルギーです」とは言いにくいわけですが、FITなしで販売すればそれを正面から言うことができて、たとえ少々価格が上がっても電気が売れる。
二酸化炭素も排出しないし、使用済み核燃料も出ない。そういう状況を生み出すのに一番近い位置にたどり着くのが、出光と昭和シェルの合併によって生まれる会社だと思います。これもM&Aが一種「奇跡」を起こしていると言えます。
―他にも昭和シェル石油と出光興産の経営統合にメリットはありますか?
出光は外国資本の入っていない企業です。昭和シェルはロイヤル・ダッチ・シェルの傘下にありますが、昭和シェルの二番目の株主は世界最大の石油会社であるサウジアラムコです。
このうちのロイヤル・ダッチ・シェルの株式が出光に移転するわけですが、出光はサウジアラムコとこれまで疎遠であったため、80年代のサウジアラムコの原油だけが安かった時代に、それが買えなくてつぶれかかった歴史があります。その出光とサウジアラムコがなんと、今度の経営統合でつながるんです。
―サウジアラムコは、産油国サウジアラビアの国営石油会社ですね。
そうです。サウジアラムコとつながるということは、原油価格のインサイダー情報に近いものが手に入るようになるということです。例えばいつ減産を始めるとか、始めないとか、そういう情報も入手できるようになり、アジアのトレーディングで有利になります。
もともと昭和シェルは、ロイヤル・ダッチ・シェルとの契約で日本でしか営業してはいけないのに、妙にアジアのトレーディングだけ強かったのですが(笑)、それはサウジアラムコとの関係があったからだと推測できます。それが国内に強い出光の力と合体してアジア全域で展開できるようになります。今出光は、優秀なトレーディング部隊をシンガポールに送り込んでいます。
それに出光は、ベトナムに製油所をつくっていますので、昭和シェル・出光グループは日本の石油会社からアジアの石油会社に変身していくでしょう。産油国のサウジアラムコとつながり、トレーディングにも力を入れていく。そういう大きな変換のステップとしてM&Aが使われるわけです」
<次のページは、JX・東燃が生む石油と石油化学の一体化>
出光と昭和シェルの合併には、出光の大株主である同社の創業家が強硬に反対。両社は2017年4月を目指していた合併の無期限延期に踏み切った。
公取委の審査を通ったことで合併協議が本格化し、合併後の成長戦略が明確になれば、創業家への説得材料になると期待するが、創業家側の態度は硬く、翻意は容易でない。
昭和シェルも合併への道筋が明確でない中で、出光が同社の大株主になることに給油所(SS)や販売店が反発しかねないといったリスクを抱える。
「出光による株取得は、あくまでも一過性のもの」(広報部)だとして理解を求める考えだが、この状況が長引けば造反や系列からの離反が続出しかねない。
合併の早期実現に向け、出光が第三者割当増資によって創業家の議決権比率を下げるなどの厳しい決断を迫られる可能性もある。
一方、JXHDと東燃ゼネラルの先にも険しい道のりが待ち受ける。両社はそれぞれ21日の臨時株主総会で統合への承認を求め、17年4月に統合新会社を創設。国内のガソリン販売シェアが5割を超す巨大石油元売りとなる。
だが、経済産業省は国内の燃料油需要が、15年度からの5年間で8・4%縮小すると予想。この間、エネルギー供給構造高度化法に従って原油処理能力の削減などに取り組んできた元売り各社に、さらに踏み込んだ対応を指示する検討を進めている。
日刊工業新聞2016年12月20日
橘川武郎氏(東京理科大学大学院教授)に聞く
4月にニュースイッチでエネルギー業界の分析力で定評のある東京理科大学大学院・橘川武郎教授のインタビューを掲載した。その中では、出光興産と昭和シェル石油の合併メリットなどについて示唆に富む指摘がある。再編集してお届けする。
―昭和シェル石油と出光興産の経営統合はどう分析しますか。
まず意外な方から言うと、両社とも石油会社ですが、実は出光は大分県の滝上(たきがみ)で九州電力と地熱発電所をやっているし、新しく北海道でも実施しようとしているなど、地熱発電に熱心な会社です。それから青森県の六ヶ所村に蓄電池付きの最新鋭の大規模風力発電所を持っています。
以前に石原元都知事が熱心だったので、東京都では大きなビルに二酸化炭素の排出量の規制が掛かっているんですが、例えば、新丸ビルの電気は出光の風力発電所の電気を使っています。それと王子製紙の北海道の水力発電を使い、丸の内一帯のビルの電気を賄っています。つまり出光は地熱と風力に強い会社なんです。
―丸の内の高層ビル群は、出光の風力と王子製紙の水力というグリーン電力で賄われていたんですね。
そうです。一方の昭和シェルは、子会社に有名なソーラーフロンティアという会社を持っていまして、これは太陽光パネルの国内最大手なんですね。それから日本で一番大きなバイオ発電所は、昭和シェルの100%子会社が川崎で稼働しているわけです。
つまりこっちは太陽光とバイオに強いわけです。そうすると、「太陽光・バイオ・風力・地熱」と再生可能エネルギーそろい踏みになるわけです。
―環境保全の意識が高い企業や個人に需要がありそうですね。
固定価格買い取り制度(FIT)を使うと、電気を売る時に「完全再生可能エネルギーです」とは言いにくいわけですが、FITなしで販売すればそれを正面から言うことができて、たとえ少々価格が上がっても電気が売れる。
二酸化炭素も排出しないし、使用済み核燃料も出ない。そういう状況を生み出すのに一番近い位置にたどり着くのが、出光と昭和シェルの合併によって生まれる会社だと思います。これもM&Aが一種「奇跡」を起こしていると言えます。
サウジアラムコとつながるメリット
―他にも昭和シェル石油と出光興産の経営統合にメリットはありますか?
出光は外国資本の入っていない企業です。昭和シェルはロイヤル・ダッチ・シェルの傘下にありますが、昭和シェルの二番目の株主は世界最大の石油会社であるサウジアラムコです。
このうちのロイヤル・ダッチ・シェルの株式が出光に移転するわけですが、出光はサウジアラムコとこれまで疎遠であったため、80年代のサウジアラムコの原油だけが安かった時代に、それが買えなくてつぶれかかった歴史があります。その出光とサウジアラムコがなんと、今度の経営統合でつながるんです。
―サウジアラムコは、産油国サウジアラビアの国営石油会社ですね。
そうです。サウジアラムコとつながるということは、原油価格のインサイダー情報に近いものが手に入るようになるということです。例えばいつ減産を始めるとか、始めないとか、そういう情報も入手できるようになり、アジアのトレーディングで有利になります。
もともと昭和シェルは、ロイヤル・ダッチ・シェルとの契約で日本でしか営業してはいけないのに、妙にアジアのトレーディングだけ強かったのですが(笑)、それはサウジアラムコとの関係があったからだと推測できます。それが国内に強い出光の力と合体してアジア全域で展開できるようになります。今出光は、優秀なトレーディング部隊をシンガポールに送り込んでいます。
それに出光は、ベトナムに製油所をつくっていますので、昭和シェル・出光グループは日本の石油会社からアジアの石油会社に変身していくでしょう。産油国のサウジアラムコとつながり、トレーディングにも力を入れていく。そういう大きな変換のステップとしてM&Aが使われるわけです」
<次のページは、JX・東燃が生む石油と石油化学の一体化>