中小企業はなぜ多様な働き方で先行するのか?
メトロール(東京都立川市)、最年長はなんと81歳!
さまざまな属性や価値観を持つ人を積極的に雇用し、その能力発揮を後押しする「ダイバーシティ経営」―。大手企業の先進的な取り組みとの印象が根強いものの、中小企業が、これを体現しているケースが少なくない。もともと中小企業は人材確保や定着のため、制度を柔軟に運用してきた「多様性の宝庫」。イメージや数値目標ばかりが先行する大手企業とは一線を画す。働き手の実情に寄り添ったきめ細かい取り組みが企業競争力の源泉となり、さらなる人材獲得につながる好循環を生み出している。
【女性やシニア 業績拡大をリード】
工作機械に使われる位置決めセンサーで世界トップシェアを誇るメトロール(東京都立川市)。この3年間で売上高を2・5倍に急拡大させた成長の原動力の一つが世代も雇用形態も異なる女性社員の活用だ。完成品在庫をほとんど持たない多品種少量生産を支える製造部門は、ほぼ100%女性パート社員。他方、現地法人の立ち上げや展示会運営をはじめ事業の海外展開の最前線に立つのは若手女性社員。同社製品のユーザーである金属加工エンジニア同士のフェイスブックでの交
流に火を付け、ITを活用した海外直販の拡大に拍車をかけたのも新入社員のアイデアだ。
「優秀な人に長く働いてもらうためには会社側が社員それぞれの家庭事情に寄り添うべきだ」―。松橋卓司社長の経営方針はいたって明確。柔軟な雇用戦略は女性活用だけを想定したものではない。シニア世代も積極的に採用する。最年長の本庄輝夫さんは現在81歳で、週4日勤務。その本庄さんが中心となって開発した、従来製品の10倍の精度を実現したエアマイクロスイッチは大手自動車メーカーの超精密加工の現場で採用が決まったばかりだ。
もともと男性正社員の採用が困難だったことから近隣の主婦層を採用し、多能工技術者として戦力化してきたことが多様な人材活用のスタート。その高い意欲に応えようと、社内制度を整えてきた結果、現場発の改善提案を通じた生産性向上という成果を生み出した。作業環境の整備などハード面の充実にとどまらない働き手の実情に合わせた配慮は随所にみられる。
例えば、社内行事。多くが母親であることに配慮して昼に観劇や食事を楽しみ、夕方6時には終了する。こうした小さな積み重ねがパート社員で最長25年勤務という定着率の高さにつながっている。男女や年齢を問わず、活躍できる企業としての認知度も高まり、今や新卒採用には2000人近くのエントリーがあるという。
【ベテランが「新風」】
伝統企業の長年貫いてきた経営理念が「多様な人材活用」そのものでもあるケースもある。 除雪機や農業機械を製造するフジイコーポレーション(新潟県燕市)。2015年に創業150年を迎える同社が希望者全員を65歳まで再雇用する制度を導入したのは1992年。10年にはこれを70歳まで延長した。現在、140人の従業員のうち70歳以上の社員は3人で最年長社員は78歳の笹川キヨさん。働き方もさまざまで、従来通りのフルタイム勤務だけでなく、健康や家庭の事情も考慮して短時間勤務を選択する人もいる。
高齢者の中途採用も行っており、選考にあたっては、過去の経歴や技術的な専門性だけでなく、「どんな『新風』を吹き
込んでくれるか」(藤井大介社長)に期待。あえて「多様性」を持ち込む狙いが見てとれる。
新工場建設を機に、内部をバリアフリー化した。部品の移動にはキャスター付台車を利用したり、工具はすべて吊り下げ式で身体に負荷がかからないといった工夫も凝らした。一連の環境整備は、車椅子での就労に対応する狙いもある。
家族的な経営を重視する同社にとってシニア世代が持つ技術や経験を「財産」として受け継ぐ企業風土は技術革新の原動力になってきた。00年に開発した溶接ロボットシステムでは「治具は重いもの」「一つのロボットは決まった部品しか流せない」といった常識打破に挑む若手をシニア世代が支えた。溶接の歪みを抑える工夫や日本古来の建築手法である「ホゾ」の原理の応用などベテラン技術者の豊富な現場経験が技術ブレークスルーの突破口を開いたという。
米国在住経験もある5代目の藤井社長は「本場(米国)のダイバーシティ経営論とは異なるものだが、従業員を大切にしてきた日本には日本流のダイバーシティの芽が息づいている」としたうえで、「中小企業の人材活用はもともと多様性に富んでいる」と指摘する。その事実を中小企業自身が再認識し、企業競争力を高める「強み」にどう変えていけるか―。そのきっかけは自社の足元にありそうだ。
【女性やシニア 業績拡大をリード】
工作機械に使われる位置決めセンサーで世界トップシェアを誇るメトロール(東京都立川市)。この3年間で売上高を2・5倍に急拡大させた成長の原動力の一つが世代も雇用形態も異なる女性社員の活用だ。完成品在庫をほとんど持たない多品種少量生産を支える製造部門は、ほぼ100%女性パート社員。他方、現地法人の立ち上げや展示会運営をはじめ事業の海外展開の最前線に立つのは若手女性社員。同社製品のユーザーである金属加工エンジニア同士のフェイスブックでの交
流に火を付け、ITを活用した海外直販の拡大に拍車をかけたのも新入社員のアイデアだ。
「優秀な人に長く働いてもらうためには会社側が社員それぞれの家庭事情に寄り添うべきだ」―。松橋卓司社長の経営方針はいたって明確。柔軟な雇用戦略は女性活用だけを想定したものではない。シニア世代も積極的に採用する。最年長の本庄輝夫さんは現在81歳で、週4日勤務。その本庄さんが中心となって開発した、従来製品の10倍の精度を実現したエアマイクロスイッチは大手自動車メーカーの超精密加工の現場で採用が決まったばかりだ。
もともと男性正社員の採用が困難だったことから近隣の主婦層を採用し、多能工技術者として戦力化してきたことが多様な人材活用のスタート。その高い意欲に応えようと、社内制度を整えてきた結果、現場発の改善提案を通じた生産性向上という成果を生み出した。作業環境の整備などハード面の充実にとどまらない働き手の実情に合わせた配慮は随所にみられる。
例えば、社内行事。多くが母親であることに配慮して昼に観劇や食事を楽しみ、夕方6時には終了する。こうした小さな積み重ねがパート社員で最長25年勤務という定着率の高さにつながっている。男女や年齢を問わず、活躍できる企業としての認知度も高まり、今や新卒採用には2000人近くのエントリーがあるという。
【ベテランが「新風」】
伝統企業の長年貫いてきた経営理念が「多様な人材活用」そのものでもあるケースもある。 除雪機や農業機械を製造するフジイコーポレーション(新潟県燕市)。2015年に創業150年を迎える同社が希望者全員を65歳まで再雇用する制度を導入したのは1992年。10年にはこれを70歳まで延長した。現在、140人の従業員のうち70歳以上の社員は3人で最年長社員は78歳の笹川キヨさん。働き方もさまざまで、従来通りのフルタイム勤務だけでなく、健康や家庭の事情も考慮して短時間勤務を選択する人もいる。
高齢者の中途採用も行っており、選考にあたっては、過去の経歴や技術的な専門性だけでなく、「どんな『新風』を吹き
込んでくれるか」(藤井大介社長)に期待。あえて「多様性」を持ち込む狙いが見てとれる。
新工場建設を機に、内部をバリアフリー化した。部品の移動にはキャスター付台車を利用したり、工具はすべて吊り下げ式で身体に負荷がかからないといった工夫も凝らした。一連の環境整備は、車椅子での就労に対応する狙いもある。
家族的な経営を重視する同社にとってシニア世代が持つ技術や経験を「財産」として受け継ぐ企業風土は技術革新の原動力になってきた。00年に開発した溶接ロボットシステムでは「治具は重いもの」「一つのロボットは決まった部品しか流せない」といった常識打破に挑む若手をシニア世代が支えた。溶接の歪みを抑える工夫や日本古来の建築手法である「ホゾ」の原理の応用などベテラン技術者の豊富な現場経験が技術ブレークスルーの突破口を開いたという。
米国在住経験もある5代目の藤井社長は「本場(米国)のダイバーシティ経営論とは異なるものだが、従業員を大切にしてきた日本には日本流のダイバーシティの芽が息づいている」としたうえで、「中小企業の人材活用はもともと多様性に富んでいる」と指摘する。その事実を中小企業自身が再認識し、企業競争力を高める「強み」にどう変えていけるか―。そのきっかけは自社の足元にありそうだ。
日刊工業新聞2014年7月28日中小・ベンチャー・中小政策面