鉄鋼・非鉄価格が上昇。“トランプ相場”、実物経済を振り回す
この2週間でいったい何が変わったのか。何も変わっていない
供給抑制の動き、鉄鋼分野でも
供給抑制の動きは、鋼材、鉄鉱石、原料炭など鉄鋼の分野でも目立っている。世界最大の鉄鋼生産・消費国である中国は、宝鋼集団(上海市)と武漢鋼鉄集団(武漢市)の合併などに見られるように過剰生産能力の削減に本腰を入れ始めた。石炭などの資源メジャーにも再編に向けた動きが見られる。
高炉の製鉄原料となる鉄鉱石の国際相場は、年初から8割近くも高い水準で推移している。国際指標となる中国向け鉄鉱石(豪州産粉鉱石・鉄分62%)のスポット(随時契約)価格は足元でトン当たり72ドル前後で、9月から3割近く高い。鉄鋼原料用石炭(原料炭)のスポット価格も同300ドルを超え7月のほぼ3倍、過去最高値圏にまで上昇している。
SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストは、「原料炭は北米炭の減産に加え、中国政府が減産を打ち出した事が決定打となり、需給は逼迫(ひっぱく)傾向。16年は供給不足状態となっている」と話す。中国政府が4月に炭鉱の稼働日数制限を打ち出すなか、豪州での生産障害が重なり需給が一気にタイト化した。相場の急騰に対し、中国政府は10月、減産緩和を炭鉱会社に要請したが、「生産再開には時間がかかりそうだ」(山口氏)という。
ただ、今後の相場展開は、「冬季の天候悪化で豪州の供給も滞るため、当面、高値が続くだろう。だが、採算が十分に確保できる水準に市況は上昇しており、時間経過とともに世界中で増産となり、市況は下落に転じる」(山口氏)と予測する。
トランプ新政権によるインフラ投資など景気刺激策への期待から、鉄鋼は非鉄とともに上昇した。だが山口氏は、「米国は最大の経済大国だが、金属市場における構成比は低い。15年の米国の鋼材消費が世界に占める割合は中国の44%に対し、7%に過ぎない。(ドル高による)通貨安によって、新興諸国の金属消費が落ち込むリスクもある」と指摘する。
(トランプ氏<左>と副大統領候補のペンス氏。トランプ公式サイトより)
コモディティー需要を減退させる
トランプ米次期大統領の政策の実現性に対しては懐疑的な見方も根強い。芥田氏は、「環太平洋連携協定(TPP)撤退など保護主義的な動きは、世界景気を押し下げ、コモディティー需要を減退させる」と警戒する。
大越氏は、「実際にインフラの整備が積極的に進められれば、産業用素材への需要は相当程度増加する」とした上で、「インフラ整備はやや長い時間軸で影響を考える必要がある。実際に整備が進められるとしても、金属需要の拡大には、やや時間を要する」と分析する。
また、トランプ氏の政策は財政赤字懸念から米長期金利が上昇しやすい。資源の価格リスクマネジメントコンサルタント会社、マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表取締役は、「米長期金利の上昇は景況感の悪化をもたらすとともに、新興国からの資金流出加速を通じ、(新興国の)経済成長を鈍化させる可能性がある」と指摘する。
今後、トランプ氏の発言などにより、国際商品を含む金融市場は乱高下し、不安定な値動きとなる可能性もある。
(文=関口和利)