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鉄鋼・非鉄価格が上昇。“トランプ相場”、実物経済を振り回す

この2週間でいったい何が変わったのか。何も変わっていない
 鉄鋼や非鉄金属などの産業用素材価格が乱高下しつつも上昇傾向を強めている。長引く市況低迷から供給抑制の動きが強まっていたところに、トランプ米次期大統領による大規模インフラ投資など景気刺激策への期待が追い風になり、相場を押し上げた。ただ、期待先行による投機主導の上昇との側面が強いほか、トランプ新政権の政策実現性に対する不透明感も根強い。今後、不安定な値動きが続く可能性がある。

 11月9日、米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏の当選が確実になった直後、金融市場には動揺が広がり株式などのリスク資産は売られた。

 非鉄金属の国際指標となるロンドン金属取引所(LME)の非鉄相場もリスク回避の動きから下落した。だがその後、トランプ氏の掲げる大型減税や、10年間で1兆ドルにも及ぶ巨額インフラ投資を柱とした景気刺激策への期待が、非鉄金属需要の増加観測につながり、上昇に転じた。

 LMEの銅地金相場はトン当たり5400ドルに迫り、約1年3カ月ぶりの高値に達した。翌日以降も銅地金相場は続伸し、11日には、3カ月先物が一時、同6025ドルを超え、2015年6月以来の高値を付けた。

 アルミニウム、ニッケル地金は約1年半ぶりの高値、亜鉛地金は約5年半ぶりの高値に上昇した。15日には、亜鉛地金は3カ月先物がトン当たり2600ドルに迫り、約5年9カ月ぶり高値を付けた。


 だが、金融市場の期待で上昇する以前に、非鉄金属は需給要因で相場が押し上げられる傾向が強まっていた。亜鉛はスイスの鉱業大手グレンコアが、豪州で保有する亜鉛鉱山の一部を休止すると公表したことから、鉱石需給の引き締まりが意識され、大幅に上昇した。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部の芥田知至主任研究員は、「亜鉛は、豪州やアイルランドの大型鉱山の閉山を受けて需給引き締まり観測が強まっていた。ニッケルは、ドゥテルテ政権発足後のフィリピンで、環境規制の強化を受けて鉱山の操業が停止されたことなどを背景にそれぞれ上昇基調となった」と指摘する。

 LMEのスズ地金相場も世界最大の輸出国であるインドネシアの供給懸念や在庫減少が相場を押し上げている。

 世界的に過剰な金融緩和状態を見直す動きが強まっており、非鉄、原油などの国際商品(コモディティー)市場では、金融要因よりも需給要因を材料に相場が動く傾向が強まっている。

今後は品目によって異なる値動きに


 野村証券の大越龍文シニアエコノミストは“トランプ相場”について、「期待先行で各市況が上昇した。だが今後は、品目ごとの需給状況が意識され、品目によって異なる値動きとなる可能性が高い」と見通す。米国、中国をはじめ世界景気の緩やかな拡大に伴い、産業用素材の需要は一定の伸びが続くとの見方が多い。

 芥田氏は、トランプ相場など、かく乱要因によって「思惑先行の動きで乱高下する場面がある。ただ、中長期的には、概ね16年初頭あたりが底になって、コモディティー相場は持ち直す動きになっている」と指摘する。

 そうした中、大越氏は「(産業用素材需要の)伸びに加速感も減速感もないため、需要面から市況が変動する可能性は高くない。今後市況を動かすのは、供給側の変化だ」と話す。

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原直史
原直史 Hara Naofumi
鉄鋼、非鉄金属の価格が、トランプ米国次期大統領の経済政策に期待して、上昇している。記事はこの動きは期待先行であり、不安定要素が強いと警鐘を鳴らしている。当然だろう。株式市場は大統領当日、トランプ氏の勝利に動揺して、1,000円近く下げ、今はその水準から2,000円ほど上昇している。この2週間でいったい何が変わったのか。何も変わっていない。商品市場は本来需給バランスを調整し、価格を安定するための機能を持つはずなのに、全く逆の動きをしている。為替市場・株式市場も含め、市場は製造業、流通業など実物経済を円滑に進める役割を果たさず、実物経済を振り回している、そのように見える。

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