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ドイツの製図ペンから絵画やイラストを描くアートな人

ロットリング「点描も斜め線も、一本のペンでさまざまな描き方ができる」
ドイツの製図ペンから絵画やイラストを描くアートな人

岸勇樹さん


絵を見た人がポジティブになるきっかけに


 -山下清や藤城清治と共通するような、幻想的で緻密な描写です。作品にテーマがあるのですか。
 「私の作品は自分の中にある神話、歴史を切り取ったものです。頭の中に、ある大きな物語、ファンタジーの世界を昔から持っていました。それを、あるコンセプトを持って切り取り、描いていきます。この世界は大きなサーガ(歴史物語)であり、連綿と続きつつパラレルワールドとして実世界のように広がっています。どれだけ描いても尽きることはありません。もちろん『指輪物語』や『氷と炎の歌』、『ハリーポッター』のような物語が好きですね」

 -絵を購入された方に、その絵のストーリーを紙に書いて添えているとか。
 「自由に絵を解釈してもらいたいので、押しつけにならないように渡しています。ですので、読まなくても結構です。ただ『この絵についてもっと知りたい』と思う方に、より深く知ってもらう一助になればと思っています。全ての絵に共通する要素として、『絵を見た人がポジティブになるきっかけ』となってもらいたいというテーマがあります。例えば、家庭内でケンカしてしまったとき、お互いが絵を見て、ふと自分を見つめ直して仲直りする、というものです」

 「そのため、性別や年齢、住むところなどの制約なく、いろいろな人に作品を見てもらいたいと考えています。ストールやハンカチといったコラボレーションの商品を出すのはそうした理由からです。ほかにもクッションやコーヒーカップなどなら、どんな家庭でも置いてあります。そうすれば、日常の中で作品を見てもらい、ポジティブになるきっかけとなることができるのです」

 -今後の活動は。
 「一作品ごとに労力をかけていく。これを続けます。描くものは、周りの人たちから請われたものになるでしょう。私は周りから良い影響を受けながらここまできました。それは今後も続くと思います。工業デザイン的なものも手がけています。作品を見てもらうきっかけは多い方が良いです。それと、海外はたぶん行くことはないと思います。飛行機が嫌いなので、外国に出かけたいとは思いません」
【プロフィール】
岸勇樹(きし・ゆうき)
 東京理科大学理工学部建築学科卒。2013年からロットリング イソグラフ0・1ミリメートルを使った作品づくりを開始。第15回インターナショナル・イラストレーション・コンペティション優秀賞、第4回創作表現者展ドラード特別賞、第18回エイズチャリティ展持田総章特別賞など数々の賞を受賞。イソグラフ0・1ミリメートルの特徴を生かした緻密さと、独特の世界観を描いた作品で評価を受けている。1987年生まれ。東京都出身。
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石橋弘彰
石橋弘彰 Ishibashi Hiroaki 第一産業部
アートを手がける人間というと、どうしても取っ付きにくい印象を受ける。だが、岸さんはそうではなく、真摯にいろいろと話してもらえた。絵についても「絵を見て何を書きたいか受け取ってくれ」と言われないかと心配したが、全くの杞憂だった。周りの評価が高まっても、人柄は変わらないでもらいたい。

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