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東芝が描く、“東芝にしかできない” 再成長戦略

ロボット、AI、暗号通信まで。4―9月期の営業損益は黒字に
東芝が描く、“東芝にしかできない” 再成長戦略

量子デバイスの評価実験(左、東芝提供)と物流向けの自動荷下ろしロボット(イメージ)


英国発で国内初の「量子暗号通信」目指す


 原理的に盗聴が不可能とされる次世代の量子暗号技術。東芝は2020年までに、国内初となる量子暗号通信の実用化を目指す。初の海外拠点として開設した英国の「東芝欧州研究所ケンブリッジ研究所」では、03年に量子暗号通信技術の研究を始めた。最近は英政府のプロジェクトにも参画し、実用システムの開発を進める。

 東芝は同分野で業界をリードする成果を挙げてきた。10年、50キロメートルの光ファイバーを使って世界最高速となる毎秒1メガビット(メガは100万)で暗号鍵を送る実験に成功。この性能は今なお破られていない。

 14年には首都圏の既設の45キロメートル光ファイバー上で暗号鍵を送り、1カ月間以上安定的に稼働できることを確認した。現在は東北大学と実際の全遺伝情報(ゲノム)解析データを暗号化して送る実験を行っている。

 ケンブリッジ研は、英ケンブリッジ大学にほど近い場所にあり、研究所長も同大から招くなど密接な関係にある。設立25周年を迎えた7月の研究所セレモニーも同大で実施した。

 浅井博紀副所長は、「物理的な距離がそのまま心理的な距離感につながっており、大学と共同研究をする上で組織の壁はほとんど感じない」と話す。世界の知が集まる大学と日常的に交流できる環境は、研究者にとって最大のアドバンテージだ。

 研究所には世界各国の研究者が在籍し、コンピュータービジョンや音声認識の研究も行う。半導体技術をベースに基礎研究から手がけてきた量子暗号通信技術は順次、日本の本社に移管しており、実用化が目前だ。「研究所発の技術の事業化の成功例になる」と浅井副所長は期待する。

 量子暗号通信は海外で一部実用化されているものの、本格普及には至っていない。研究所は10月に英BTグループと顧客向けのデモ展示施設を開設し、需要の開拓も急ぐ。

 BTとは英国で、17年にも量子暗号の通信回線を一部完成させる計画だ。英国の独特なアカデミックな研究所で生まれた量子暗号技術が今、まさに花開こうとしている。
(文=藤木信穂)

日刊工業新聞2016年11月1日



テレビ事業でさらにリストラ


 東芝が11日発表した2016年4―9月期連結決算は、営業損益が967億円の黒字(前年同期は891億円の赤字)に転換した。半導体やHDD(ハードディスク駆動装置)が堅調だった。また15年度に取り組んだパソコン事業などの縮小や固定費削減のための構造改革の成果も出た。家電事業の売却益などで当期利益は、前年同期比3・1倍の1153億円に伸びた。一方、テレビなど一部事業は赤字となっており、さらなる構造改革に乗り出す意向。

4―9月期の売上高は事業の絞り込みなどを進めた影響で、同4・3%減の2兆5789億円となった。為替の円高進行により売上高で2050億円、営業損益で380億円のそれぞれマイナス影響となった。課題だったパソコン事業の営業損益は、7億円の赤字(前年同期は148億円の赤字)だったが、為替の影響を除けば黒字化したという。

会見した平田政善代表執行役専務は「15年度に実施したパソコンやテレビ、システムLSIなどでのリストラの結果、会社の建て直しの大筋は見えてきた」と評価した。

通期決算は減収だが、営業損益は1800億円の黒字(前期は7087億円の赤字)に転換する見通し。引き続き半導体部門で堅調な推移を見込む。一方で、平田専務は「16年度下期(16年10月―17年3月)は残りの不採算事業のリストラを進める」と説明。600億円規模の構造改革費を確保し、テレビ事業などでさらなるリストラを進める意向を示した。

また東芝は同日、子会社の東芝EIコントロールシステム(福岡市中央区)で売上高の過大計上が発覚したと発表した。平田専務は「問題を把握できたのは、内部統制機能が有効に機能しはじめたため。さらに強化し万全を期したい」と話した。

日刊工業新聞2016年11月12日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
原発事業を筆頭にまだ東芝の課題が払拭されたわけではない。リストラを進めてきたが、幸いまだ研究開発の層は厚い。いかに事業に結び付けていくか。

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