「パリ協定」きょう発効。日本の技術が世界の温暖化対策の切り札に
藻の培養からCCS、人工光合成まで
NEDO、人工光合成に挑む。実用化は30年が目標
水槽の底に置かれたシートから細かい気泡が次々にわき上がっている。早送りの動画と思えるほど気泡は猛スピードで発生し、水の中を上昇していく。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開発した光触媒シートによる水分解を撮影した映像だ。光を照射すると光触媒の働きでシートに酸化力が発生。その酸化力で水が酸素と水素に分解され、気泡となった。
NEDOは光触媒技術を活用した人工光合成の開発に取り組む。太陽光を受け、CO2と水からでんぷんと酸素を作る植物の光合成を模し、太陽光エネルギーでCO2を資源化するのが人工光合成だ。
NEDOは30年を実用化の目標とする。商業プラントは、水分解装置を火力発電所や大規模工場の近くに設置するイメージだ。降り注ぐ太陽光で光触媒が水を分解し、気泡から水素を抽出する。火力発電所や工場の排気から回収したCO2と水素からオレフィンを製造。オレフィンはプラスチックの材料として素材メーカーに供給する。CO2の放出を防ぐだけでなく、プラスチックを作るための化石資源の使用量も減らせる。
光触媒がカギ
実現のカギを握るのが光触媒だ。NEDOと三菱化学などが参加する「人工光合成化学プロセス技術研究組合」は15年3月、太陽光エネルギーから水素を作り出す変換効率で2%を達成。16年9月末には3%に向上させた。
開発プロジェクトは経済産業省の事業として12年にスタートし、14年にNEDOへ移った。プロジェクトマネージャーを務めるNEDO環境部の服部孝司主査は「当初の変換効率は1%以下だった。確実に効率が上がっている」と手応えを語る。
人工光合成は欧米でも研究が始まっている。NEDO環境部の吉澤由香主任研究員は「NEDOは実用化も見据えている」と違いを強調する。猛スピードで気泡が発生していたシートは1枚の基板上に光触媒を塗布した。
変換効率3%を達成した装置は2枚の基板を使う。シートが1枚だと1・1%に落ちるが、簡易工程で作成できるため製造コストを抑えられ、実用化へのハードルを下げられる。
21年度には実用化の水準となる10%を目指す。NEDOなどは高効率化できる光触媒材料の探索を続けながら、低コストな製造方法も検討する。
2度C未満にしても異常気象の影響が
パリ協定は気温上昇を産業革命前に比べ2度Cより低くし、1・5度Cに抑える努力目標も掲げる。科学者は2度C未満を達成しても異常気象の影響は残るが、被害を軽減できると予想する。
そして2度C未満のために人類が排出できる残りのCO2は1兆トンと分析。現在のペースで排出が続くと30年以内で突破する。温室効果ガスの排出と吸収の均衡が迫られ、パリ協定には「最新の科学に従って早期の削減を行うことを目的とする」と明記された。CO2の回収・利用技術の出番がやってきそうだ。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2016年11月4日「深層断面」