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女性限定の賞は女性研究者活躍に有効?それとも逆差別?

女性限定の賞は女性研究者活躍に有効?それとも逆差別?

若手育成で女性研究者を増やす(お茶の水女子大)


「無意識の偏見」にさらされている?


 パネル討論では、「ライフイベントで慌ただしい女性には、40歳未満という年齢制限は向かない」「他薦では推薦状の依頼に気兼ねが生じるため、自薦も可とした」など、選考に当たって、女性の状況に配慮した工夫が紹介された。

 一方で「ワークライフバランスの評価」という難題も横たわる。「基本は研究業績だが、評価が同等の時は背景的なものを考慮している」という学会側に対し、聴講者が「子どもの数と論文の数の両方を見るのか」といった刺激的な意見を投げかける場面もあった。女性賞創設を検討中の学会をはじめ、改善を重ねながらの状況であることが、印象づけられた。

 一方、シンポジウムのもう一つの分科会「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」もユニークだ。人が育ちや経験の中で、自覚なしに刻み込まれた性別、人種、貧富などに対する固定観念は、人を評価する時にしばしば顔を出す。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマチ・ディルワース副学長は、「評価者が疲れたり急いだりしている時、グループに少数の特徴的な人が目立つ時、業績情報が十分にない時などにバイアスがかかりやすい」と講演した。

 そのため人事を議論する場ではこのような状況を避ける必要がある。「欧米の大学では、教員の採用や昇進に関わる人向けに、アンコンシャス・バイアスの研修義務化が進んでいる」というディルワース副学長の発言に、質問の手がいくつも挙がった。

 これに対してOISTでも15年から義務化したこと、ウェブ上で英語の研修教材が入手できることなどを紹介した。

 同連絡会の小川温子委員長(お茶の水女子大学理事)は「会の役割は、学協会によって温度差のある意識の啓発や情報の共有化だ」と強調する。過去には育児休業を分割取得する手法の先行例を紹介し、他の大学に広がった実績もある。政府の後押しに加え、現場の女性研究者ネットワークによって、状況が大きく改善することが期待されている。
(文=編集委員・山本佳世子)
日刊工業新聞2016年10月28日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「女性賞」という言葉だけ聞くと、「逆差別」だけでなく、「そんなことされたくない」という女性自身の声も聞こえてきそうです。しかしそういった声が上がりながらも、賞を設ける必要性があるという状況をまず理解する必要があります。

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