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ホンダ、タカタから他社への切り替え年内完了

ダイセルなどのインフレーター確保。最大顧客の受注失い再建計画に影響も
ホンダ、タカタから他社への切り替え年内完了

ダイセルが製造しているインフレーター


法的整理か私的整理か


 会社更生法や民事再生法を活用した法的整理は、裁判所の管轄下で倒産手続きを進めるため透明性が高いとされる。ただタカタは「倒産企業」のレッテルを貼られることで、部品を供給する車メーカーや部材を調達するサプライヤーとの取引関係が悪化する可能性がある。また人材の流出も懸念され、タカタの事業基盤が揺らぐ恐れもある。

 自動車メーカーにとっては、エアバッグとシートベルトでそれぞれ世界シェア約2割のタカタが、法的整理による混乱で製品の供給が滞れば、現行車の生産や販売への影響が避けられない。

 一方、私的整理は裁判外の手続きで、債権者と債務者の話し合いで進める。倒産企業として見られることはなく、取引関係や事業価値が毀損(きそん)されにくいとされる。タカタの事業への影響も抑えられ、車メーカーにとっても部品の安定調達の可能性が高まる。

 リコール費用の回収を巡っては、裁判所の下で返済額を確定する法的整理と比べ、話し合いで返済手続きを決める私的整理は、回収率をより高められる余地が残る。ただ当事者の協議で進める私的整理は透明性に問題があるとされ、一部の車メーカーは裁判所が関与する法的整理を望む可能性もある。


取引量の差で対応別れる


 またタカタとの取引量の違いでも車メーカーの対応が別れるケースも想定される。タカタへの依存度が低い車メーカーは代わりとなるエアバッグメーカーを確保するのが比較的容易で、法的整理による部品供給停滞の影響を抑えられる。

 また肩代わりするリコール費用も小さく、財務に与えるダメージもそれほど大きくない。「整理手法を巡り、タカタとの取引量が多く現行車への影響が懸念される日系車メーカーと、依存度が小さい欧米系車メーカーで対応が割れる可能性がある」(証券アナリスト)との指摘もある。

 日系車メーカー幹部は「タカタからリコール費用を全額回収することは難しい。部品を安定調達できれば私的整理にこだわることはない」との考えを示した。

 スポンサーにとっては、法的整理により確定していないリコール費用や訴訟費用など将来的にタカタが請求され得る偶発債務と、経営再建を切り離せる。一方、創業家にとって法的整理は100%減資の可能性があり、私的整理による再建を望んでいるとみられる。

 タカタは再建の過程で車メーカーとの取引を継続する必要がある。スポンサーには再建後の資金支援とともに、製品供給能力が求められる。特に大規模リコールの要因となった品質管理は厳しく問われ、火薬など専門知識が必要なエアバッグの事業経験も重要な選定要素になるとみられる。

 スポンサー候補にはインフレーターやエアバッグを手がけるダイセルやオートリブなど専業メーカーが名を連ねる。技術流出や寡占化を懸念してオートリブなど海外メーカーの支援に難色を示す向きもあるが、日系車メーカー幹部は「そのようなことを言っていられる状況ではない。品質管理のノウハウを持つメーカーとファンドの連合が望ましい」との見方を示した。

困難極める


 タカタは今後、自動車メーカーとのリコール費用の分担協議に入り、並行して車メーカーの意向もくみながらスポンサーを選ぶ。月内にもスポンサーを1―2社程度に絞り、2016年内にも再建策をまとめたい意向だとされる。

 今後の交渉について日系車メーカー幹部はタカタとの契約内容は各社で違うため、「費用の負担割合は車メーカーごとの話し合いで決まる」と指摘。別の幹部は10月中にスポンサーから直接説明を受けることになるとの見通しを示す一方、「年内に再建策がまとまるかは分からない」と述べた。

 車メーカー各社でタカタとの距離や関係が異なるなか、最終的な再建策の策定は困難を極めそうだ。

日刊工業新聞2016年10月12日「深層断面」

安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
現在進行中のスポンサー選定では、私的整理ないし法的整理を通して、カーメーカーなどの債権者に債権放棄を求めるものと思われる。調達源の多様化を進めないと思わぬ痛い目に遭うという教訓になろう。一方、最大顧客ホンダの調達先変更が再建計画に与える影響も見極めなければならない。

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