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時代遅れではない!「水力発電」は再生可能エネルギーのエースになりうる

<情報工場 「読学」のススメ#16>『水力発電が日本を救う』(竹村 公太郎 著)

水半分のダムを満タンにすれば発電量が2倍に!


 (1)は、シンプルに言えば「ダムにもっと水を入れろ」ということ。おそらくあまり知られていないのだろうが、いま各地にある大規模な多目的ダムには、通常水が半分ほどしか貯められていない。

 これは貯まっていないのではなく、あえて半分にしているのだという。なぜか。それは、多目的ダムには発電などの「利水」のほかに、河川の氾濫や洪水を防ぐ「治水」の役割もあるからだ。ダムを満タンにしてしまうとそれ以上雨水が入らないため、治水の役割を果たせなくなる。

 この半分ほどにも水を貯めれば、単純に発電量は2倍になるそうだ。つまりもう一つダムをつくるのと同じ効果がある。治水への影響について竹村さんは、「今の予報技術ならば早い時期に氾濫の危険を察知できる。予測された時点から少量ずつ放流していけばいい」と考えている。

 (2)も(1)と同じ理屈だ。つまり、ダムは水位が高くなればなるほど発電量を増やすことができる。それならば既存のダムをもっと高くすればいい、ということだ。たとえば100メートルのダムを10メートル高くする。10%高さが増しただけだが、これだけで単純計算で70%も発電量が増えるのだそうだ。

 (3)についても、知られていないか、気づかれていないことである。「発電に使われていないダム」とは、主に「砂防ダム」を指す。これは山間部の渓谷などにある10メートルから30メートルほどの小さなダムで、文字どおり砂、すなわち土石流を防ぐためのものだ。この砂防ダムを転用して小水力発電に利用する。1基あたりの発電量は小さいが、とにかく全国には非常に多くの砂防ダムがある。それらを足せばかなりの量が発電できるし、地産地消で地元の電力をまかなってもいい。

 水力エネルギーは供給を他国に頼る必要がまったくない「純国産エネルギー」だ。しかもダムは耐久性が高いため、長期にわたり安定した持続的な電力の確保が可能だ。竹村さんの策にしたがい既存のダムのポテンシャルを生かせば、初期コストはさほどかからない。竹村さんの試算では、既存のダムの活用法を工夫するだけで総電力需要の20%ほどはまかなえるようになるという。

 現代は、かつての高度成長期のように積極的に開発を進め、新しいものをどんどん作っていけばよい、という時代ではない。少なくとも日本ではそうだ。現代に求められるのは、「すでにあるもの」を上手に工夫して活用する知恵ではなかろうか。これは、たとえばAirbnb(ネットによる民泊仲介サービス)などのシェアリングエコノミーにも通じる。そうした知恵を育むには、まずは「思い込み」を捨て、まっさらな目で既存のものを見直す「観察眼」が重要になるのだろう。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『水力発電が日本を救う』
-今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる
竹村 公太郎 著
東洋経済新報社
192p 1,400円(税別)
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冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
日本の発電のうち、水力発電が占める割合は、約9%(2016年エネルギー白書より)。これは、黒部ダムが完成した1975年から多少の増減はあるにしても、ほとんど変わっていません。もし、既存のダムを使った水力発電に余地があるなら、大きな資産を見過ごしてきたことになります。水力エネルギーが注目されることを期待したいと思います。

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