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ジャパンディスプレイがスマホ向け液晶増産。危機はしのげるか

惑う有機ELへの投資。18年モデル「アイフォーン」は再び液晶に?
ジャパンディスプレイがスマホ向け液晶増産。危機はしのげるか

JDIのスマホ用液晶と本間CEO


「画質も視野角も液晶のほうが上回っている」


 しかし有機ELの液晶パネルに対する優位性を疑問視する声は根強い。自ら発光する材料を使う有機ELパネルは、画像が鮮明であることや、省エネルギー性が特徴とされてきた。しかし長内厚早稲田大学ビジネススクール教授は「今では液晶パネルの技術が進化し、画質も視野角も液晶のほうが上回っている」と指摘する。

 液晶に比べ劣勢に立たされる部分もある。液晶パネルのようにバックライトを搭載する必要がないため、究極的にはコスト低減できるが、足元では液晶の2倍ともいわれる。また赤と緑、青の画素パターンを塗り分けるメタルマスクを精緻に制御することが難しく、フルハイビジョン(FHD)の4倍の解像度を持つ「4K」への対応など高精細化にも不向きと言われる。

 現時点で有機ELパネルが優れるのはデザインの自由度が高い点だ。有機ELは液晶に比べ部品点数が少なくデザインの制約が少ない。また画素を形成する基板に薄い樹脂を採用するフレキシブル型は曲げ加工できる。実際、早ければ17年に登場する有機ELアイフォーンについて業界内では「全面がディスプレーで両端を曲げたデザインを採用するのではないか」との声が上がる。

18年モデルのアイフォーンは再び液晶に?


 しかしデザインの自由度でも液晶パネルが巻き返しを見せる。米サンフランシスコで5月に開かれたディスプレー分野の世界最大の学会「SID」。JDIや東北大学は曲げられるフレキシブル液晶パネルの技術を披露した。JDI関係者は「液晶パネルの進化の余地はまだ大きい」と強調する。

 アップルはすでにサムスンと契約を交わしており、アイフォーンの17年モデルの一部には有機ELパネルを採用する見通し。だが液晶が順調に進化を遂げれば「アイフォーンの18年モデルは、再び液晶パネルを全面採用する可能性もゼロではない」と長内教授は指摘する。

中国メーカーから資金支援の打診も


 JDIは有機ELパネルの量産投資について「主要顧客と協議していく」(本間充会長兼最高経営責任者〈CEO〉)とし、アップルから資金援助を受ける可能性を示唆する。また「中国スマホメーカーからも量産開始を促す意図で資金支援の打診がある」(業界関係者)という。

 ただJDIの有機ELパネル技術はサムスンに対し周回遅れと言われる。その状況下でアップルから資金支援を受ければ、今の下請け体質から脱却することは難しくなる。

「液晶の進化」にかけるのか


 JDIの強みはやはり、世界の先端を行く液晶パネルだ。日本には偏光板やカラーフィルター、バックライトといった部材から製造装置までカバーする液晶産業の集積がある。これがJDIを支えており、開発環境でも海外勢と比べ優位に立つ。

 日立製作所東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合し、政府系ファンド・産業革新機構の出資を受けJDIは発足した。引き続き革新機構は、JDIの経営を支援する方針を掲げている。

 有機ELの対抗軸となるフレキシブル液晶パネルを巡っては、バックライトの改良や、曲げた時の見えにくさをどう解消するかといった課題があり、実用化は容易ではない。しかしオールジャパンで〝液晶を超える液晶〟を開発し、有機ELを擁する韓国メーカーに対抗するという選択肢も検討する価値はある。そのうえで成長戦略が描ければ革新機構がJDIに追加で資金支援する意味が出てくる。
(文=後藤信之)
 
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日は世耕経産大臣が売却の可能性を示唆するなど身辺がにわかに慌ただしくなってきたJDI。足元では液晶の需要が相当高いようだ。しかも有機EL狂騒曲の中で、液晶への揺り戻しもあるという指摘。今後の大きなポイントは革新機構の出口戦略とアップルの意向だろう。

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