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財界外交は鉄鋼過剰解消へ導くか。「日本の過去の経験から学びたい」(中国副首相)

新日鉄住金が存在感。「日中の経済交流は新次元に入った」(日商・三村会頭)
財界外交は鉄鋼過剰解消へ導くか。「日本の過去の経験から学びたい」(中国副首相)

張高麗副首相(右)と会談する榊原経団連会長(21日午後=人民大会堂)


苦悩する業界、再編の動きも長期戦覚悟


 宝鋼集団(上海市)と武漢鋼鉄集団(湖北省武漢市)の合併に続き、鞍山鋼鉄集団(遼寧省鞍山市)と本鋼集団(同本渓市)の合併も明るみに出るなど、中国で再編の動きが活発化している。ここ数年、中国の能力過剰問題に振り回されてきた日本企業の関係者も、これらの動きをひとまず歓迎する。

 ちょうど訪中している新日鉄住金の宗岡会長は、宝鋼と武漢鋼鉄の合併に「(合併後の新会社が)世界2位の規模になったとしても、(同3位の)我々にとって面白くないとか、つまらないというような話ではなく、歓迎すべきこと」と語った。ただ、日本企業は1980年代以降、過酷な合理化を長きにわたり経験してきたこともあり、関係者の多くは「中国の鉄鋼業の正常化には10年くらいかかるだろう」と悲観的だ。

 過剰能力解消がなかなか進まない最大の要因が雇用。特に重工業が盛んな東北部は鉄鋼業や石炭業などが経済を支えている。老朽化した製鉄所を廃棄しても、それ以外の産業が脆弱(ぜいじゃく)なため、雇用の受け皿に乏しい。3月に政府が雇用調整のため、2年で1000億元程度の奨励金を用意する政策を打ち出したものの、受け皿がない限り効果は限定的だ。

 日本側はかねて「要請があれば、我々が経験したノウハウを中国に提供したい」(進藤孝生日本鉄鋼連盟会長)としているが、現時点で具体的な進展はない。構造不況業種と言われた日本の鉄鋼業は、80年に50万人以上いた労働者を04年には半分の25万人以下まで減らした。

旧新日鉄は“首切り”一切せず


 旧新日本製鉄のある幹部は「製鉄所では毎週、どこかの部署で送別会が開かれていた」と振り返るほどの人員削減を断行。ただ、“首切り”を一切せず、最後の一人まで面倒を見たのが自慢だ。人事担当者は再就職先を探すため、全国を駆け回り、転籍先の企業の給与が低い場合は、その差額を補填した。

 さらに02年にJFEホールディングス、そして10年には新日鉄住金が誕生。業界再編で過剰設備の整理が一気に進んでいる。そうした経験があるだけに、中国側から雇用について、より実践的な対策が目に見えて出てこない限り、過剰能力解消が進むとは考えていない。大手同士の合併についても「持ち株会社の下に2社がぶら下がる(設備が温存される)ような形なら解決にはならない」(国内の鉄鋼大手首脳)との指摘がある。主要設備の廃棄など具体策が出てくるかどうかを注視している。
(北京=神崎明子、大橋修)
日刊工業新聞2016年9月23日
原直史
原直史 Hara Naofumi
中国側が、日本の言い分に耳を傾け、理解を示し、しかも副首相が「日本の過去の経験から学びたい」と明言されたという。中国の鉄鋼産業の状況が極めて深刻で、中国政府もそのことを認めざるを得ず、日本の助力も仰ぎたいところまで来ているという現れだろう。どのような具体策が打ち出されるか注目される。

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