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財界外交は鉄鋼過剰解消へ導くか。「日本の過去の経験から学びたい」(中国副首相)

新日鉄住金が存在感。「日中の経済交流は新次元に入った」(日商・三村会頭)
財界外交は鉄鋼過剰解消へ導くか。「日本の過去の経験から学びたい」(中国副首相)

張高麗副首相(右)と会談する榊原経団連会長(21日午後=人民大会堂)

 日中経済協会、経団連、日本商工会議所の経済3団体が27日までの日程で中国を訪れている。最大の目的は、鉄鋼をはじめとする中国の過剰生産問題を軟着陸させるための糸口を見いだすことだ。実体経済を反映しない鉄鋼や石炭の過剰生産を解消しない限り、世界経済の先行き不安はいつまでも払しょくされない。主要20カ国首脳会議(G20サミット)でも世界経済の下振れリスクとの認識で一致した。中国が実効性ある対策づくりに動く機運をどこまで高められるかが焦点になる。

 「非効率なゾンビ企業の削減・淘汰(とうた)を供給側改革の最優先課題として着実に進めていただきたい」(宗岡正二日中経済協会会長=新日鉄住金会長)―。21日、北京で開かれた国家発展改革委員会との会合。日本側は鉄鋼の過剰生産能力の解消が市況を回復させ中国が抱える過剰債務の返済とイノベーションにつながる成長投資を促すことを訴えた。

 これに対し中国側からは「鉄鋼で4000万トン、石炭で1億5000万トンの能力削減が可能」との具体的な発言があった。その後の企業経営者との対話でも「我々のセメントの生産能力は著しく過剰」といった現状認識が示され、今後の需給調整への期待を感じさせるものとなった。

 とりわけ中国の鉄鋼の過剰生産問題は、米国の利上げとともに世界経済の下振れリスク。7月の伊勢志摩サミット(主要7カ国首脳会議)に続き、先の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも、名指しこそしなかったものの、中国に責任ある対応を迫っていた。G20サミットでは鉄鋼の主要生産国が情報を共有する「国際フォーラム」の創設を決めている。


減産になれば中国政府の求心力に影響も


 中国側の対応にも変化がないわけではない。同国政府は国内粗鋼生産能力を今後5年間で1億―1億5000万トン削減する方針を打ち出したほか、3月の全国人民代表大会(全人代)では、過剰生産設備の解消など構造改革を進めることも決めた。ただ、中国側がどこまで本気で一連の改革に取り組むのかは不透明だ。鉄鋼が雇用の受け皿になっているだけに、減産となれば中国政府の求心力が弱まりかねないため。

 財界トップによる今回の訪中は、中国で初開催されたG20サミット後のタイミングで実現しただけに、民間として中国側からより具体的な対応を引き出せるかが最大の焦点。とりわけ、かつて“鉄冷え”に苦しんだ日本は、合理化を進めた経験やノウハウを提供することで、中国の取り組みを後押しできるとみており、具体的な提案や継続的な経済協力につなげたい意向を示す。

 21日に訪中団と会談した張高麗副首相は「(合理化によって需給調整に取り組んだ)日本の過去の経験から学びたい」と明言。当初1時間を予定していた会談は40分も超過する異例の長さとなった。政治外交はともかく、少なくとも経済分野での協力関係の土壌はできつつある。

地方政府の人事評価は依然「経済成長」


 一方、克服すべき中国固有の課題もある。地方政府の幹部人事評価は依然として経済成長を尺度としているため、国内総生産(GDP)寄与度の大きい産業の再編や設備廃棄、減産には二の足を踏む。中央政府も構造改革が一時的な失業者の増加を招き、社会不安につながることへの警戒感が根強い。

 今回の訪中は、単にサミットでの合意内容の履行を迫るだけでなく、新たな成長軌道を模索する中国との関係強化につなげることが期待される。「日中の経済交流は新次元に入った」と表現するのは日商の三村明夫会頭。痛みを伴う合理化と構造改革を推進するのは容易ではない。ただ、内需主導による経済成長の実現に向け、構造改革を進めなければならないのは日本も同じ。日中が痛みを乗り越え、競うように成長戦略に取り組むことが、世界経済への貢献につながる。

<苦悩する業界、再編の動きも長期戦覚悟>

日刊工業新聞2016年9月23日
原直史
原直史 Hara Naofumi
中国側が、日本の言い分に耳を傾け、理解を示し、しかも副首相が「日本の過去の経験から学びたい」と明言されたという。中国の鉄鋼産業の状況が極めて深刻で、中国政府もそのことを認めざるを得ず、日本の助力も仰ぎたいところまで来ているという現れだろう。どのような具体策が打ち出されるか注目される。

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