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AIが人間の良きパートナーとなるためには「哲学」が必須

<情報工場 「読学」のススメ#14>『人工知能のための哲学塾』(三宅 陽一郎 著)>

AI・ロボットとのコミュニケーションを求める人が多数


 ビッグローブ株式会社は2016年5月に、映画『エクス・マキナ』と共同で「AI(人工知能)に関する意識調査」を実施した。対象は15歳から84歳までのインターネット利用者1,114人。

 このアンケート調査の中に「あなたが人工知能(AI)に期待することは何ですか?」という質問があり、それに対してもっとも多かった回答は「医療分野の進歩が急速に進む」(52%)であり、「乗り物の自動運転・自動操縦」(40%)がそれに続いている。

 注目すべきは、この質問に対する回答の第3位が「コミュニケーションの相手になってくれる」(32%)、第4位が「ロボットとの生活が実現する」(27%)だったことだ。少なからぬ人々がAI・ロボットと友人のように心を通わせたいと願っているということではないだろうか。

 日本のマンガ・アニメの世界では、昔から親しみやすいロボット・キャラクターがしばしば登場し、人気者になってきた。鉄腕アトムはドラえもんがその代表格だ。彼らは人間と同じように喜怒哀楽を表に出し、人間と楽しく交流をする。

 最近ではコンピュータ・ゲームの中のキャラクターが、あたかも生身の人間のようにプレイヤーと会話をし、画面上を自分の意思で動き回る(ように見える)。これらのキャラクターには最新のAI技術が応用されていることがある。『人工知能のための哲学塾』(ビー・エヌ・エヌ新社)の著者、三宅陽一郎さんは、そうしたゲームに使われる人工知能である「ゲームAI」開発の第一人者と言われている。

 同書は、2015年5月から2016年4月まで全6回で開催されたイベント「人工知能のための哲学塾」をベースにしている。人工知能開発で必要となる「哲学」の基礎と、それがAIにどのように生かされるのかをわかりやすく解説。対象となる哲学の分野は主に現象学で、デカルト、フッサール、ユクスキュル、デリダ、メルロ=ポンティの理論が取り上げられている。

 哲学というと、難解でとっつきにくい印象をもつ人が多いだろうが、同書で取り上げる哲学は、「私たちは世界をどう見ているのか」を探っていくものと言っていい。人工知能を人間に近づけるためには、人間による「世界の見方」を知る必要がある。
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冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
本書の著者、三宅陽一郎氏は、ゲーム会社の(株)スクウェア・エニックスのゲームAI開発者です。AIというと、例えば、IBMのワトソンが医療で診断のために使われるなど、人間には到底できない膨大な学習の中から答えを見つけ出すというイメージがありました。人間の考えること=論理的なことだけではなく、「どう感じるか、どんな記憶が呼び覚まされるか、などさまざまな意識の流れ」もAIが学習していくというのは、バーチャルな人が生きる空間=バーチャルリアリティであるゲームを開発しているエンジニアならではの視点なのかもしれないと感じました。

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