清水建設会長 宮本洋一「日本の社会資本整備と都市インフラ」を考える
「コンパクト&ネットワーク」の発想が不可欠
「ストック効果」重視の姿勢に転じる
わが国の社会インフラは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や膨大な維持費用、維持管理人材の不足など多くの課題を抱える。高度成長時代には、「効率的」かつ日本全国に偏りなく「均一」に整備することが求められたが、成熟した経済社会では、今ある社会インフラをいかに適切に維持し続けていくかや公共交通へのアクセス確保、効率性をどう担保するかが課題になる。
都市政策は質的な変化を迫られている。その上で、今後の社会資本整備において重要なのは、民間投資を呼び込む成長戦略の視点である。
それを象徴する動きとして、注目されるのが沖縄だ。日本を含むアジア主要都市から那覇空港に貨物をいったん集め、短時間で目的地別に積み替え再びスピーディーに輸送する国際貨物事業。
アジア域内の貨物需要の取り込みに成功し、沖縄経済の活性化につながっていることは広く知られているが、港湾施設整備においても、経済効果をにらんだ取り組みがみられる。
大型クルーズ船の寄港の増加を受けて那覇港、石垣港、平良港では本格的な国際クルーズ船をはじめ、多様なクルーズ形態への対応が可能になるバース整備が進む。訪日外国人(インバウンド)のみならず国内からも旅行客の増加が期待される。
国土交通省が社会インフラ整備において「ストック効果」重視の姿勢に転じたことは大きな変化だ。インフラ整備には、生産や雇用を通じて短期的に経済を拡大させる「フロー効果」に加え、整備直後から民間投資が喚起でき、利便性が向上し地域経済に中長期的な発展をもたらす「ストック効果」がある。
沖縄のケースを引き合いに出すまでもなく、東九州自動車道や圏央道をはじめ道路網の整備によって、サプライチェーンが効率化し、生産性が向上。そして、北陸新幹線、北海道新幹線の開業による広域的な観光交流といった経済効果と国民の利便性の向上などもすでに顕在化しつつある。
かつて「コンクリートから人へ」をキャッチフレーズに公共事業の大幅削減を掲げた時代があった。言うまでもなく、投資効果のあるインフラを選んで整備していく発想は、財政的な制約があるなかで、理にかなっており、民間投資を呼び込む成長戦略として大いに期待される。
経済効果を見越して、経済界からは北海道新幹線の札幌への延伸や、山形新幹線のフル規格化を求める声が上がるのは当然のことである。その意義を広く社会に問うていきたい。
<いまの日本は都市政策を見直す絶好機>
日刊工業新聞2016年8月31日/年9月1日/2日