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アップルとiPhone。クック時代、過去の遺産とこれからの遺産

「短期でも中期でもこれに代わる製品は出てこない」(クックCEO)
アップルとiPhone。クック時代、過去の遺産とこれからの遺産

昨年9月のクックCEOのキーノート映像から


クックCEO「スマホのカギはAI」


 では、当のクックCEOはiPhoneの現状やこれからをどう見ているのでしょうか。ちょうど、就任丸5年を迎えたタイミングでワシントンポスト紙(8月13日付)が同CEOのインタビュー記事を載せました。その中で、クックCEOは開発中の自動車についてはまったく触れませんでしたが、iPhoneの今後にはかなり自信を持っているようです。

 「長期にわたってユーザー1人に1台が対応するスマートフォンは、コンシューマー製品の中でも特別な存在だ。こんな製品はほかにない。地球規模で見れば、これからスマートフォンを持つ人たちもいて、まだまだ巨大な市場となっている」と成長の可能性が大きいことを強調しました。

 その上で、将来のスマートフォンのカギを握るコア技術として人工知能(AI)を挙げています。

 「AIはiPhoneをユーザーにとってより不可欠になるだろうし、AIによってアシスタント機能は現在より優れたものになる。今ではスマートフォンを持たずに外出するようなことはおそらくないだろうが、将来はユーザーが本当の意味でスマートフォンとつながった状態になる。性能のレベルもどんどん向上し、短期でも中期でもこれに代わる製品は出てこないだろう」。

 この発言を裏付けるかのように、このところアップルによるAIスタートアップの買収が目立っています。昨年には英ケンブリッジ大学発のボーカルIQや、深層学習による画像認識技術を持つ米パーセプティオを相次ぎ買収。ボーカルIQは機械学習による対話システムを開発し、音声アシスタントのSiri(シリ)で自然な対話ができるようにするのに役立てられるかもしれません。

 この8月にも、シアトルに本社を置き、機械学習プラットフォームを持つトゥリを買収していたことが明らかになっています。

次の5年で驚きの新製品は?


 こうしたAI技術はiPhoneばかりでなく、音声でやりとりしながらAR(拡張現実)技術で車や周囲の状況をビジュアルに表示する自動運転車や、やはり開発中と言われるアマゾンの「エコー」対抗のスピーカー型音声アシスタントにも応用されていくことでしょう。

 さらに、iPhoneとApple Watchで力を入れているヘルスケア関連のサービスにも、AIが導入されていくものと思われます。

 現在、クックCEOは55歳。「次の5年間で何が起きるかで、クック時代の遺産が決まる」とアップル担当アナリストのジーン・ミュンスター氏はみています。

 今年はともかく、来年に大幅な変貌を遂げると期待されるiPhoneを含め、アップルならではのワクワクするような製品が今後どれだけ登場するか、お手並み拝見といきましょう。
(文=藤元正)
日刊工業新聞電子版2016年8月29日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
クックだからアップルとiPhoneがここまで成長できたのか、クックではなくても成長できたのか。クックでない人でもできたかもしれないが、クックだからできた。ややこしい言い方だが、そう多く代わりはいなかったということで、「アップルのCEO」としてはかなりベターな人物だったのではないかと個人的には思う。これまでは。アップルがもう一度、驚きを見せてくれるとしたら、クックの次の人の時代。クックのこれからの最大の仕事は後継者選びだ。

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