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中国・鉄鋼業、ようやく構造調整か。それでも不信感がぬぐえない

欧米VS中国、日本は対立の巻き添えも
 中国の鉄鋼業界がようやく目に見える形で構造調整に動きだす中、日本の鉄鋼業界は依然、その余波を受け続けている。国営の鉄鋼大手同士による統合計画が発表され、足元では再び市況が改善し始めたとはいえ、生産や輸出は高水準のまま。欧米諸国がその削減を中国政府に強く求めるものの、その歩みは欧米の不満を解消するまでには至らず、日本はその対立の巻き添えになりかねない立場にも置かれている。

 「設備廃棄のインセンティブが制度として中国にはない。中国側のニーズがどこにあるかも含めて、日本から提案してもいい」。経済産業省の担当者はこう言って、9月に経済協力開発機構(OECD)会合で開かれる予定の鉄鋼委員会を見据える。

 1970年代の石油危機以降、長きにわたり合理化を経験してきた日本の鉄鋼業は官民挙げて、その経験や知見を中国政府や企業に伝えるべく、アプローチを重ねている。だが、中国側の反応は鈍い。

 政府間で有効な政策のあり方を話し合いたい経産省も「今まで2度ほど訪中して政府関係者と議論したが、具体的に何を知りたいかを言ってこない」(担当者)こともあり、次の機会では、余剰設備の廃棄を政策的に促すためのさまざまな優遇制度を直接提案するべく、検討を重ねている。


米国がアンチダンピング措置を決定


 中国への圧力を強める欧米諸国に対し、日本は中国へは輸出超過なこともあり、やや立ち位置を異にする。一時より円高とはなっているが、今の為替水準なら「鉄鋼製品に対する日本の品質要求は厳しい。安いからといって中国製品が大量に流入してくることはない」(東京製鉄の今村清志常務)と言い切る。

 他方、日本の鉄鋼大手は自動車など製造業向けに現地の合弁企業から鋼材を供給。そこに向け、高級鋼に使う熱延コイルや冷延鋼板、線材などの半製品を大量に輸出している。

 こうした中、欧米諸国と中国の対立が激化し、アンチダンピング措置など対抗手段の打ち合いとなれば、日本もそのとばっちりを受けかねない。実際、米国は6月下旬、中国と日本の冷延鋼板に対するアンチダンピング措置を最終決定。税率は中国製が265・79%と圧倒的に高く、中国をターゲットに据えたのは明らか。

 だが、日本製も「クロ」と判断され、71・35%と決して低くはないアンチダンピング税が課されることになった。これには経産省の担当者も「どう対処したらいいか、悩ましいところだ」と頭を抱える。

中国からの報復も摩擦は回避したい


 一方、中国は日本や欧州連合(EU)、韓国の電磁鋼板に対し、仮決定で「クロ」の判断を下している。これもEUに対する中国の報復に巻き込まれた可能性が高い。ほかにも、カナダが日本と中国製の大径溶接ラインパイプに「クロ」の仮決定を下すなど、枚挙にいとまがない。

 日本企業としては、これ以上の貿易摩擦激化を回避したいこともあり、「困っているのは中国自身。あまり追い詰めないで、手を貸した方が得策」(鉄鋼大手首脳)というのが本音だ。日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)も、中国メーカーの構造調整を支援すべく、たびたび「要請があれば是非、我々の過去の知見や経験を提供したい。

 特に雇用面で我々は“首切り”を一切せず、一人残らず再就職先をあっせんし、給与の差額も補填(ほてん)してきた」と力説する。だが「今のところ具体的な依頼はない」だけに、当面は静観するしかないのが現状だ。

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日刊工業新聞2016年7月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
中国全体をみると、構造改革は動き始めている。2015年のGDPに占める消費の割合は5割を超えた。かつては投資と輸出で7割を占めていた。雇用創出力の高いサービス産業が伸び年間1300万人の新規就労者に職を与えていると言われている。ただ供給改革一気に進めると、失業者が増え社会の不安定要因になる。地方の抵抗が強く、競争原理にのっとった市場の力で淘汰を進めるのだろう。今のスピードは日本企業にとっては遅いが、我慢強く待つしかない。

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