英航空ショーに果敢に挑んだ中小企業の収支決算「まずは世界を知ることから」
技術アピールよりも来場者との交流を意識
地方の中小企業グループが海外の航空機市場参入に向けて動きだした。国内市場は世界全体のごく一部であり、海外企業からの受注が航空機事業の成功には不可欠。広島県、石川県の中小グループは、英国でこのほど開かれた世界最大級の航空宇宙産業展「ファンボロー国際航空ショー」で、それぞれの方法でアピールに挑んだ。
「ゆくゆくは受注したいが、まずは世界を知ることから」―。明和工作所(広島県福山市)の菊田九常務取締役に焦りはない。減速機の歯車を手がけ、航空機産業の成長性や長期間仕事を得られることに魅力を感じ、2012年に営業活動を始めた。
広島県が14年に設立した組織「ひろしま航空機産業振興協議会」では、同社など県内の会員5社が初出展。IHIの調達部門OBの支援を得て、各社と来場者の商談を実施した。これまでは国内での商談を支援していたが、「市場のほとんどを占める海外を狙わなければならない」(井上隆志広島県商工労働局ものづくり・新産業支援担当課長)と方針転換した。
石川県産業創出支援機構は県外企業6社を含む12社と出展した。本多保夫事務局参事は「石川県の企業かどうかにはこだわらない」と説明する。
12社は航空機部品の受注から納入までの各工程を共同で手がける組織「ジャパンエアロネットワーク」(JAN)に所属する。各社が得意とする工程を分担し、高林製作所(金沢市)など石川県の中小が中心的な役割を担う。
JANは主に、降着装置など航空機関連が主力の住友精密工業から仕事を受注する。同社がサプライヤーの強化を狙って、13年のJAN設立を支援した。JANの仕事の多くは、同社から受注したものだ。
住友精密工業OBで、JANの五十嵐健最高執行責任者(COO)は「航空機産業の課題であるコストを抑えることが一番の目標」と説き、「石川県の企業でほとんどの工程をカバーできる」と同県の中小の技術力を評価する。
ファンボロー、パリと主要航空ショーにはこれまでも出展しており、アピールよりも来場者との交流を意識した。五十嵐COOは「航空ショーは展示会というよりはサロン」とどっしりと構える。
初出展の広島、常連の石川の姿勢は対照的だが、海外での存在感を高めようという思惑は同じだ。地方の航空機産業が飛躍するには、海外で評価されることが不可欠だ。今回の出展を第一歩に、粘り強く取り組むことが期待される。
(文=名古屋・戸村智幸)
(広島県の航空機関連の振興協議会では中小5社が初出展)
2016年は航空機関連の中堅・中小企業が部品の共同受注や一貫生産体制の構築を本格化する年となりそうだ。秋には三菱重工業のサプライヤー10社でつくる「航空機部品生産協同組合」が三重県松阪市で航空機部品の製造を始める。川崎重工業のサプライヤーも投資負担のかさむ表面処理設備などを共同利用するプロジェクトを進める。長年、航空機産業が指摘された「高コスト体質」からの脱却に向けた取り組みが動きだす。
暮れも押し迫った15年12月中旬。岐阜市内に航空機の部品製造などを手がける全国22の航空機関連の中小企業団体が集まった。「国内航空機産業クラスターフォーラム」。中部経済産業局が主催したもので、2日間の日程で共同受注の体制づくりや品質保証のあり方などを議論した。全国の「クラスター」同士の連携を加速することも確認し合った。
航空機産業では複数企業による一貫生産体制の構築に向けた動きが具体化している。中部地域を中心とする中堅・中小企業10社でつくる「航空機部品生産協同組合」は三菱重工の後押しを受け、同社松阪工場(三重県松阪市)に機体部品の”共同工場“をつくる。10社が生産設備などを出し合い、16年後半の製造開始を目指す。
共同工場では、製造にかかるフロータイム(材料仕入れから部品完成までの時間)を従来の半分以下の3―5日に抑え、業界の商習慣である単一工程ごとの「ノコギリ発注」から脱却するという。
一方、川重の協力会社で構成する「川崎岐阜協同組合」は、中核企業である天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が表面処理、非破壊検査、塗装といった工程を担う工場を同社敷地内に新設。組合各社がこれを活用する取り組みを進める。
一貫生産の流れは航空機のエンジン部品でも始まっている。三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)はエンジンの「タービンブレード」の一貫生産を放電精密加工研究所に委託。今後も平和産業(東京都港区)に「燃焼器ケース」、光製作所(岐阜県笠松町)に「燃焼器ライナー」を委託する。
こうした一貫生産は海外では通常の仕組みとされる。三菱重工航空エンジンの島内克幸社長は「将来は彼ら(サプライヤー)自身が海外から受注してほしい」とし、一貫生産の構築によって協力企業がグローバルに展開することを期待する。
<次のページ、15―20%のコスト低減要請>
「ゆくゆくは受注したいが、まずは世界を知ることから」―。明和工作所(広島県福山市)の菊田九常務取締役に焦りはない。減速機の歯車を手がけ、航空機産業の成長性や長期間仕事を得られることに魅力を感じ、2012年に営業活動を始めた。
広島県が14年に設立した組織「ひろしま航空機産業振興協議会」では、同社など県内の会員5社が初出展。IHIの調達部門OBの支援を得て、各社と来場者の商談を実施した。これまでは国内での商談を支援していたが、「市場のほとんどを占める海外を狙わなければならない」(井上隆志広島県商工労働局ものづくり・新産業支援担当課長)と方針転換した。
石川県産業創出支援機構は県外企業6社を含む12社と出展した。本多保夫事務局参事は「石川県の企業かどうかにはこだわらない」と説明する。
12社は航空機部品の受注から納入までの各工程を共同で手がける組織「ジャパンエアロネットワーク」(JAN)に所属する。各社が得意とする工程を分担し、高林製作所(金沢市)など石川県の中小が中心的な役割を担う。
JANは主に、降着装置など航空機関連が主力の住友精密工業から仕事を受注する。同社がサプライヤーの強化を狙って、13年のJAN設立を支援した。JANの仕事の多くは、同社から受注したものだ。
住友精密工業OBで、JANの五十嵐健最高執行責任者(COO)は「航空機産業の課題であるコストを抑えることが一番の目標」と説き、「石川県の企業でほとんどの工程をカバーできる」と同県の中小の技術力を評価する。
ファンボロー、パリと主要航空ショーにはこれまでも出展しており、アピールよりも来場者との交流を意識した。五十嵐COOは「航空ショーは展示会というよりはサロン」とどっしりと構える。
初出展の広島、常連の石川の姿勢は対照的だが、海外での存在感を高めようという思惑は同じだ。地方の航空機産業が飛躍するには、海外で評価されることが不可欠だ。今回の出展を第一歩に、粘り強く取り組むことが期待される。
(文=名古屋・戸村智幸)
(広島県の航空機関連の振興協議会では中小5社が初出展)
広がる中堅・中小企業の「共同受注」
日刊工業新聞2016年1月4日
2016年は航空機関連の中堅・中小企業が部品の共同受注や一貫生産体制の構築を本格化する年となりそうだ。秋には三菱重工業のサプライヤー10社でつくる「航空機部品生産協同組合」が三重県松阪市で航空機部品の製造を始める。川崎重工業のサプライヤーも投資負担のかさむ表面処理設備などを共同利用するプロジェクトを進める。長年、航空機産業が指摘された「高コスト体質」からの脱却に向けた取り組みが動きだす。
クラスターも連携
暮れも押し迫った15年12月中旬。岐阜市内に航空機の部品製造などを手がける全国22の航空機関連の中小企業団体が集まった。「国内航空機産業クラスターフォーラム」。中部経済産業局が主催したもので、2日間の日程で共同受注の体制づくりや品質保証のあり方などを議論した。全国の「クラスター」同士の連携を加速することも確認し合った。
航空機産業では複数企業による一貫生産体制の構築に向けた動きが具体化している。中部地域を中心とする中堅・中小企業10社でつくる「航空機部品生産協同組合」は三菱重工の後押しを受け、同社松阪工場(三重県松阪市)に機体部品の”共同工場“をつくる。10社が生産設備などを出し合い、16年後半の製造開始を目指す。
共同工場では、製造にかかるフロータイム(材料仕入れから部品完成までの時間)を従来の半分以下の3―5日に抑え、業界の商習慣である単一工程ごとの「ノコギリ発注」から脱却するという。
一方、川重の協力会社で構成する「川崎岐阜協同組合」は、中核企業である天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が表面処理、非破壊検査、塗装といった工程を担う工場を同社敷地内に新設。組合各社がこれを活用する取り組みを進める。
一貫生産の流れは航空機のエンジン部品でも始まっている。三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)はエンジンの「タービンブレード」の一貫生産を放電精密加工研究所に委託。今後も平和産業(東京都港区)に「燃焼器ケース」、光製作所(岐阜県笠松町)に「燃焼器ライナー」を委託する。
こうした一貫生産は海外では通常の仕組みとされる。三菱重工航空エンジンの島内克幸社長は「将来は彼ら(サプライヤー)自身が海外から受注してほしい」とし、一貫生産の構築によって協力企業がグローバルに展開することを期待する。
<次のページ、15―20%のコスト低減要請>
日刊工業新聞2016年7月22日