資本金50万、ノープランからの起業で「ふるさと納税」ブームを牽引
<情報工場 「読学」のススメ#10>『「1000億円のブームを生んだ 考えぬく力」(須永 珠代 著)
マネタイズの見込みがまったくないまま事業をスタート
須永さんは、派遣社員やITベンチャー企業などを経て38歳で起業している。2008年頃には1年間、“どん底”の無職、フリーター生活も経験した。その頃にはすでに起業の意志があったそうだ。
ところが須永さんは、トラストバンクを立ち上げた時点では、はっきりとした事業計画をもっていたわけではなかった。とにかく「次のステップに挑む」ために、何をするかを決める前に資本金50万円で会社を設立した。
具体的に何をするのか決めてはいなかったが、帰省した時の父親の言葉をヒントに「ICT(情報通信技術)を通じて地域とシニアを元気にする」という、会社のミッション(本人は「北極星」と呼ぶ)は定めていた。会社は一人で始めたが、3人の知人と一緒に、先のミッションをもとに事業のアイデアを練っていった。4人によるブレインストーミングの中で見つけたのが「ふるさと納税」だった。
前職でウェブデザインの仕事をしていた須永さんは、マネタイズの見込みがまったくないまま、さっさと「ふるさと納税」のポータルサイトを立ち上げてしまう。サイトという「人が集まる場」を作りさえすればお金は生まれてくる、マネタイズは後からでも「なんとかなる」という、端から見れば無謀とも思えるスタートだ。
マネタイズの見込みがなくても、とりあえず走り出すベンチャーは多いのだが、須永さんの場合、考えがあってのことだったようだ。最初にマネタイズを考えることで、アイデアに制限がかかることを避けたかったのだという。「お金を儲ける」よりも、ミッションの実現を優先させたのだ。
まずポータルサイトという「人が集まる場」、すなわち「プラットフォーム」をつくることで、それをベースに新しいアイデアを生み出しやすくなるのだろう。現に須永さんは、「ふるさとチョイス」を少しずつ使いやすいように整備しながら、「ガバメントクラウドファンディング」「災害時緊急寄付申し込みフォーム」といった、ミッションに沿った新事業のアイデアを実現させている。
結局、「ふるさとチョイス」は広告収入などで「なんとかなる」までに2年弱かかったそうだが、それまで須永さんはコンサルティングのアルバイトなどをしてやりくりした。ベンチャーキャピタルから投資の申し出があったが、「自由が制限される」ことを避けるために断ったそうだ。
起業の際に、メイン以外の事業で収益の見込みがあれば、本当にやりたいメインの事業に関しては、採算度外視でとにかく始めてみるのもいいかもしれない。「お金を儲けなくてはいけない」という足かせを外した上で、考えぬく。そこで顧客のためになり、自分も納得がいく最高のものをつくることができれば、起業の目的は果たしたといえるのではないか。
「ふるさと納税」については、「自治体に頼りすぎることで地場産業が衰退する」などの批判の声も上がっている。そのあたりについては須永さんも危機感を抱いており、「ふるさとチョイス」で構築したネットワークを通じ、農家などの「自立」のサポートも始めているという。須永さんの「北極星」を見据えた歩みは、これからもブレずに続いていくのだろう。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
須永 珠代 著 日経BP社
253p 1,600円(税別)>
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