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話題の巨大で甘い高級イチゴは「50歳からのベンチャー」で生まれた

<情報工場 「読学」のススメ#9>『「ひと粒五万円!」世界一のイチゴの秘密』(白石 拓 著)

品種改良の「攻」とスローフードの「守」で「食の画一化」防ぐ


 日本政府は、農業改革の一環として「六次産業化」を進めている。「六次」というのは、「一次+二次+三次」を意味する。すなわち、これまで別々の主体が行っていた農産物の生産(一次産業)、加工(二次産業)、販売(三次産業)を一カ所で行うということだ。まさしく奥田さんが「美人姫」で実践している形態だ。

 政府が推進する「六次産業化」は、農業の法人化や大規模化による効率化・生産拡大をにらんだものと考えられる。しかし奥田さんは大規模化どころか、ほぼ一人でやっている。現状、日本で個人や零細農家単体で六次産業化に取り組んでいるケースはほとんどないという。

 食と農に関しては、「スローフード」という世界的なムーブメントがよく知られている。1986年にイタリアで始まった、「ファストフード」に象徴される効率重視や画一化に反対し、地域の伝統的な食文化や食材を見直そうとする運動だ。日本でも2004年に「スローフードジャパン」が設立され、栽培されなくなったことで“絶滅”寸前の食材を守る「味の箱舟」などの活動を展開している。

 スローフードジャパンの活動にも加わっている研究者の一人に話を聞いたことがある。それによると、たとえば日本には100を超えるダイコンの品種が存在するが、近年、経済効率を優先して「青首ダイコン」への画一化が進んでいる。他の農産物にも画一化の波が押し寄せており、このままだと食の多様性が失われ、日本の豊かな食文化が衰退することが懸念されるという。農産物の画一化は、何らかの理由でその品種の収穫が不可能になった時に代替物がないリスクを抱えることでもある。

 奥田さんのように新しい品種を開発することは、食の多様性の維持に大いに役立つ。「味の箱舟」が「守」だとすれば、奥田さんの取り組みは「攻」にあたるだろう。攻守にわたるさまざまな取り組みが行われることで、食の画一化を防ぐことができるのではないか。

 個人や零細農家がそれぞれ独自性のあるチャレンジをしていくことが重要だろう。奥田さんのように一人で六次産業化まで行うのはかなりの負担であることは確かだ。しかし、たとえば零細農家同士でノウハウを交換したり、加工のための工場や販売店などを共同運営することなども考えられる。

 消費者としては、美人姫に続くいろいろな品種の登場、あるいは埋もれた地域特産物の掘り起こしによって食卓がいっそう豊かに彩られることを期待したい。
 
(文=情報工場「SEREBDIP」編集部)

『「ひと粒五万円!」世界一のイチゴの秘密』
白石 拓 著 祥伝社(祥伝社新書)
200p 780円(税別)
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冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
平均的な農家では、農業だけで生計を立てることはとても難しいと言われています。果物の世界では、ちらほらと付加価値をつけた商品をつくる農家がでてきているようです。たとえば、高知の谷井農園。取組みをはじめてから15年でキロ当たり90円だったみかんを2400円にし、現在は、アマン東京をはじめとした都内高級ホテルにジュースを卸しています。この谷井農園ももともとは零細農家でした。TPP参加をめぐる議論から、日本の農業がどのように生き残れるのかに焦点があたっていますが、奥田農園、谷井農園の成功は今後の日本の農業における一つの可能性を示唆していると思います。

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