いすゞの「新興国車種」は収益を押し上げるか。“鬼門”のインドは未知数
清水秀和(証券アナリスト兼IMSアセットマネジメント社長)
タイへの部品輸出拠点に。車両の新興国輸出も視野
「ピックアップトラック事業を手がけるタイへの部品の輸出拠点としても考えている」。片山社長はインド進出のもう一つの狙いを明かす。
いすゞはタイを中心に部品を調達し、同国でピックアップトラックを年30万台強生産。うち12万台をタイ国内で販売し、残り19万台を約110カ国に輸出する。ここにコスト競争力の高いインド製部品を調達の選択肢の一つに加えることで、タイの車両開発の競争力をさらに引き上げたい考えだ。
インドでは2次サプライヤーを含め約120社の現地部材メーカーと取引し、今後さらに拡大する見込み。ただ輸出には実績が必要になる。調達した部品が1、2個良いだけではなく「1万個、10万個でも品質のバラツキを含めて使える部品でなければならない」(片山社長)。まずはインドで一定規模の販売実績を重ね、部品の品質や供給に問題がないことを確認し、信頼性を高めてから輸出に踏み切る意向だ。
地理的な利点生かす
「チェンナイを新拠点の場所に選んだ意味は大きい」。浜銀総合研究所の深尾三四郎主任研究員は地理的な利点を指摘する。今後10年程度の期間で見ると、ミャンマーのダウェイ港が完成すれば、大メコン地域(GMS)の南部経済回廊がミャンマーまでつながり、ダウェイとチェンナイ港をつなぐ海路の活用が増える。現在のマラッカ海峡を通るルートから輸送コストが大幅に削減され、インド製部品をいすゞのタイ工場にスムーズに運ぶことができると予想する。
「インドはタイと比べ廉価版のピックアップトラックができる可能性が高く、輸出も考えていきたい」。片山社長は将来的に車両の輸出拠点としての活用も視野に入れる。
タイのピックアップトラックは環境性能が高く、乗用車並みの動力性能も備える。そのためインドなど新興国市場で販売を拡大するには性能や価格が高く「現地ニーズにあったピックアップトラックの生産や販売が必要になっている」(深尾主任研究員)という。
インド新工場では現状の年産能力5万台から12万台まで拡張の余地を残す。そこには部品の輸出拠点としてタイとの補完関係を築きながら、新興国への車両の輸出を見据えたピックアップトラック事業全体の長期的な成長戦略をみられる。
ただこうした戦略も他の自動車メーカーが攻略に苦しむ“鬼門”のインド市場で販売と生産を軌道に乗せることが前提になる。片山社長は15年3月の社長就任会見で今後の成長には新市場への進出が欠かせないとし「挑戦なくして成長なし」を座右の銘とした。インド事業は気持ちを奮い立たせてでも挑戦すべき成長戦略の一つとなりそうだ。
(文=西沢亮)
日刊工業新聞2016年6月30日