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中小企業が先行!?大手とは一線、働き手の実情に寄り添う改革事例

育児だけではない!迫る「大介護時代」。多様な労働条件の整備が急務
中小企業が先行!?大手とは一線、働き手の実情に寄り添う改革事例

大阪府八尾市の三起商行では出産退社したOG社員の再雇用に積極的。育児を通じて自社のベビー商品の良さを再認識したことが積極的な販促につながっている

 人口減少が日本の未来に重くのしかかりつつある。働き手の確保が困難になるからだけではない。人口ボーナス期には有効だった「同じ条件の人が長時間働く」成長モデルが立ち行かなくなっているからだ。潜在的な内需を掘り起こしたり、技術革新を生み出すには多様な人材、多様な価値観が不可欠となるが、実は中小企業の中にはこうした経営を体現しているケースが少なくない。イメージや数値目標ばかりが先行する大手企業とは一線を画し、働き手の実情に寄り添ったきめ細かい取り組みが、企業競争力につながっている。
 
 【子育て・復職後も同じ基本給、変わらぬ職場=サカタ製作所】
 大規模建造物などの折板屋根金具を手がけるサカタ製作所(新潟県長岡市)は、復職後も同じ基本給と同じ職場、同じ業務内容を約束する出産・育児制度を導入している。小林準一取締役総務部長は「口先だけではいけない」とし、「育児休業取扱い通知書」を交付するのがポイントだ。さらに、復職後に業務がスムーズに行えるように、本人の希望により、パソコンを貸与し、会社のメールが見られるなど、在宅ワークが可能な環境を提供する。

 育児短時間勤務の利用者は「早く帰れるように会社からバックアップしてもらった。また、できる範囲の仕事から徐々に始めるようにと配慮してもらった。そのため育児と仕事の生活リズムを整えることができた」としている。小林取締役は「ワークライフバランスの中で女性に優しい職場づくりに取り組む必要がある」と強調する。
 
 出産・育児制度以外にも「社員満足が顧客満足につながる」(小林取締役)との方針に基づき、さまざまな施策を打ち出す。2013年12月期の売上高は62億円で業績は堅調に推移している。これらの施策と透明な人事制度が同社の成長の原動力になっているようだ。
 
 【事業所内に認可保育所=ボルテックスセイグン】
 群馬県安中市にある物流センターの敷地の一画に「うずまき保育園」の看板が掲げられている。総合物流業のボルテックスセイグン(群馬県安中市)が、4月本格施行の「子ども・子育て支援新制度」を活用し、開設した認可保育園だ。育児をしながら仕事を続けられる環境を提供している。

 武井宏社長は「会社の財産は社員。社員一人ひとりが活躍するための環境整備の一環」と話す。従業員約450人の同社は、社内のバリアフリー化など職場環境の整備に力を入れてきた。多様な人材が活躍できる環境づくりは、企業文化として根付いている。育児支援もテーマになり、13年に社員を対象にしたニーズ調査を実施。施設を構えることを決め、15年1月に開業。4月に特定地域型保育事業の認可を安中市から受け、認可保育園となった。

 武井社長は「将来に向けて女性を雇用できる環境を広げる。将来、女性を採用する上での条件整備」と位置づける。人材不足は県内企業の悩みになっているが、同社には当てはまっていない。それでも時代を見据えて、対策を講じている。
 
 【育児休業ガイドを社内で公開=三和化学研究所】
 製薬会社の医薬情報担当者(MR)が医師と商談できるのは診察時間外。子育てとの両立には課題も多い。三和化学研究所(名古屋東区)でも女性MRの平均勤続年数は約10年と短く、その数は全MR約600人中の50人に留まる。管理職はゼロだ。日東孝之人事部副部長は「大きな財産の損失だ」と打ち明ける。

 そこで2歳まで育児休暇を、小学6年生まで時短勤務や看護休暇を認める。社内ネットワークで育児休業ガイドを公開。育休中はパソコンを貸与し、社内や新製品・業界などの情報も提供、スムーズな復職を支援する。4月からスマートフォンへの情報提供も始めた。5年以内なら出産退職者の再雇用もし、希望者に毎年復帰の意思を確認する。

 ワークライフバランスも推奨する。月、水、金曜日はノー残業デー。朝夕に定時退社も呼びかけ、見回りもする。育児休暇5日分を有給にする制度も導入。男性の育児休暇取得率も15年度には26%になった。
 
 【出産退社の社員を再雇用=三起商行】
 三起商行(大阪府八尾市)は、出産を機に退社したOG社員の再雇用を進めている。OG社員の声を基に制度を設計し、再雇用制度を含む「ミキハウスリンク」を99年に開始。現在では社員の2割をOG社員が占め、業績を伸ばす原動力になっている。育児を通じて自社商品の良さを実感し、販売などに弾みが付くという。

 制度の運用に携わる藤原裕史社長室部長は、「社員時代の10倍は売ると豪語するスタッフもいる」と話す。全社的な取り組みとして、ベビー用品の売り場拡大を取引先に提案中だ。藤原部長は、「これに合わせて雇用機会はさらに増えていくだろう」と語る。
 
 ジェイアール京都伊勢丹の店舗で働く佐久眞宏枝さんは09年の出産を機に退社、子育てに区切りがついてきたため13年に復帰した。退職前に店長を務めた同店で、週3日ほど働く。復帰にあたり店舗スタッフも温かく迎え入れてくれた。働く場所が見つからない知人ママも多いなか、「恵まれていると日々実感している」と話す。それゆえに、「戻るのが当たり前だと思ってはいけない」と気を引き締めているという。
 
 <迫る「大介護時代」−多様な就労をどのように後押しするか>
 育児との両立支援の観点ばかりから捉えられがちだが、介護が理由で休業する社員も増えている。女性の活躍推進や育児との両立支援の観点ばかりから捉えられがちな働き方改革―。高齢化に伴う「大介護時代」の到来は、これが女性だけの問題ではない現実を突きつけている。

 働き盛りの団塊ジュニア世代が一斉に親の介護に伴う時間的な制約に直面すれば、正社員による長時間労働を前提とする硬直的・画一的な就労形態はこれまで以上に立ち行かなくなる。介護が理由で休業する男性社員の数が、育児休業中の女性をすでに上回っている企業もある。人材難に直面する中小企業が優秀な人材を獲得するには、「育児・介護・共働き」といったさまざまな事情を抱える人が活躍できる労働条件を整えることが一層重要になる。
 
 とはいえ、何から着手すべきか分からない場合は、地方自治体の施策を活用する手もある。例えば、東京都では、働き方の見直しに取り組む中小企業を後押しする「ワークライフバランス実践支援事業」を行っている。都内に本社を構える従業員300人以下の中小企業に対し、在宅勤務やモバイル勤務の導入など、固定的な就業環境にとらわれない働き方を実現するための経費の一部を助成したり、社内体制の整備を助言する専門家を派遣したりする。
 
 育児や介護中の従業員が増え業務に支障が出てきたことに頭を悩ませていた、ある企業では社内ニーズ調査に基づき、家事サービスへの支援を決定したという。15年度の助成事業は現在募集中。今回からは、助成事業とは別に仕事と介護の両立を図るため、都が定めた事業に取り組むことを条件に40万円の奨励金を支給する制度も新たに始めた。助成金と奨励金を合わせると最大140万円が受給できるという。
 
日刊工業新聞2015年05月05日深層断面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
まず「制度ありき」の大企業と異なり、働き手の実情に寄り添ってきめ細かい制度を整えたり、それを柔軟に運用している企業は案外、中小企業に多い。とりわけ人材獲得が困難な昨今は、優秀な人に少しでも長く働いてもらわなければならないからだ。ただ、目を惹くのは人材の確保・定着以上の効果を収益面に見出している企業の存在だ。以前に取材したある経営者は「中小企業は多様な人材の宝庫。さまざまな背景を持つ人の力が商品開発や現場改善に生かされている」と話していた。こうした経営理念を持つ企業を世の中に広く発信したい。

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