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不祥事から事業売却へ。過去10社の例を振り返る

リクルートから東芝まで

コムスン(06年)


<概要>
 福岡で在宅介護サービスを運営していたコムスンを人材派遣会社のグッドウィル・グループ(GWG)が買収しGWGの関連会社となる。

 07年4月、東京都より介護報酬の不正請求の疑い(架空ヘルパーの勤務など)で業務改善勧告を受けるが、コムスンは先回りして事業所の廃業届を提出し処分を逃れたため、厚生労働省は事業者指定の新規受付および更新停止という事実上の退場処分を下した。この結果を受けて、「日本シルバーサービス株式会社」にコムスンの全事業を譲渡したと発表(実態はGWGの子会社にグループ移管しただけである)。

 一連の対応に世間の批判が強まり、同年7月GWGはコムスンおよびコムスングループ内の介護および介護関連事業を全て売却。売却総額は627億円超となった。09年末に解散、11年に完全消滅した。

<M&A>
 公募により施設介護事業はニチイ学館が210億円で買収。訪問介護事業は47都道府県に事業分割した後、介護事業会社や医療法人など計16法人に売却。ジャパンケアサービスが13都道県の事業を22億5400万円で買収、セントケア・ホールディングが宮城や静岡など12県の事業を15億円で買収、サンキ・ウエルビィが広島・島根・岡山・山口の4県の事業を計2億3600万円で買収、麻生メディカルサービスが福岡県の事業を3億円で買収した。

 高級有料老人ホームの「バーリントンハウス」「コムスンガーデン」など6施設を、ゼクスが360億円で買収。(その後ゼクスは経営不振に陥り、有料老人ホーム事業をベネッセほかへ売却している)

オリンパス(11年)


<概要>
 11年6月、英国出身のウッドフォード元オリンパスCEO兼社長が、損失の先送りをしていた実態を問題視し、これを明らかにしようとしたところ、取締役会で突然解任された。後にバブル期の巨額損失を10年以上の長期にわたり隠蔽(いんぺい)し、粉飾していたことが発覚。また、その穴埋め費用を捻出するために、破格の高額買収が実施されたことが明らかとなった。

・英国ジャイラスの買収(07年11月)
 買収額は2117億円(株価プレミアムは40%上乗せ)。優先株の買取代金を還流するなど632億円を捻出。ちなみにフィナンシャル・アドバイザー(FA)への支払総額は買収額の32%に当たる約687億円であった。

 ・国内3社の買収(06-08年)
 06年より同社の事業投資ファンドを通じて医療用産廃処理のアルティス株38.0%を44億円、電子レンジ用調理容器製造のニューズシェフ株38.9%を17.8億円、化粧品通販のヒューマラボ株32.5%を46億円で取得。買収費用を水増しして716億円を捻出し、買収完了の翌年には買収総額の75%に当たる約557億円の減損処理を行っていた。いずれの3社も事実上休眠会社だったという。指南役の証券会社元社員など外部関係者に合わせて150億円が支払われていた。不祥事発覚後、国内3社は全て倒産した。

<その後>
 一連の不祥事による信用不安から資金繰りが悪化。信用補完のため12年9月にソニーと業務・資本提携を締結、ソニーが第三者割当増資を全額引受け(500億円)、筆頭株主となった。13年7月、東京地裁は菊川社長(当時)に懲役3年執行猶予5年、森副社長(当時)に懲役3年執行猶予5年、常勤監査役(当時)に懲役2年6月執行猶予4年と、オリンパス法人に罰金7億円の判決を言い渡した。電撃解任となったウッドフォード氏とは1千万ポンドで和解が成立(当時レートで約12億4500万円)。
<主なM&A>
年月 内容
2012.5 純投資目的で保有していたUBIC株式(9.47%)を野村證券へ約21億円で売却
2012.5 子会社の携帯電話販売代理店ITXの全株式を投資ファンドの日本産業パートナーズに530億円で売却。
(その後14年11月に家電量販店のノジマへ513億円で売却)
2012.9 ソニーに対し第三者割当増資(発行済み株式の11.28%、500億円)を実施。ソニーが筆頭株主となる。
(その後15年4月にJPモルガンへ保有株式の半数5.04%を約718億円で売却したため、現在は第2位の大株主となっている)
2012.9 ソニーと合弁会社(現ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ)を設立

大王製紙(11年)


<概要>
 11年7月、大王製紙元会長の井川意高氏が私用目的(海外カジノ)で関連会社から不正に融資を引き出していたことが発覚。大王製紙は井川氏に対し、子会社7社から合計106億8000万円を不正に借り入れたとして刑事告発し、井川氏は会社法違反(特別背任罪)で逮捕された。

 井川氏の父が息子を援護するなど、創業家と大王製紙の経営陣が対立する事態に発展。国内製紙業界第5位の北越紀州製紙が仲介役となって創業家が保有する大王製紙株とグループ会社株を全て買い取り(取得額は非公表)、グループ会社株は大王製紙に売却した。井川氏はこの株式売却を原資に借金を返済し、創業家は大王製紙の経営から身を引くことで事態は収拾した。

<その後>
 両社は06年に業界1位の王子製紙から北越紀州製紙が敵対的買収の標的となった際に株式を持ち合うなど提携関係にあったが、北越紀州製紙が創業家の保有していた大王製紙株(発行済み株式16.74%)を取得したことで状況が一変。出資比率が20%超の筆頭株主となると、今度は創業家に代わり北越紀州製紙と大王製紙との間で対立が続いた。

 15年9月に大王製紙が額面300億円の転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行を決議すると、CB発行による希薄化で持分法適用会社から外れることを恐れた北越紀州製紙は猛反発。同年12月には、大王製紙の佐光社長ら経営陣13名に対し、CB発行に伴う株価下落の損害賠償請求(88億145万円)を東京地裁へ提訴した(16年6月15日現在係争中)。

インデックス(13年)


<概要>
 99年iモードの占いコンテンツ「恋愛の神様」が大ヒット。国内外でM&Aを展開し、一時はグループ企業130社を擁するなど新興市場の勝ち組企業と見なされていた。

 08年8月期の連結売上高は1235億円(公表値)を計上していたが、実際は07年8月期以降5期連続で連結最終赤字となり、純資産は865億円から約7億円にまで減少。累積赤字額は700億円を超えていた。11年8月期より連結ベースで債務超過に陥っていたことが判明。上場廃止を免れるために、実態のない会社から架空の仕入れを繰り返す循環取引で売り上げと利益を水増ししていた。

 13年6月証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反容疑で強制調査。直後に東京地裁に民事再生法の適用を申請。負債総額は246億円。同年9月に主力のデジタルゲーム事業などをセガサミーホールディングスグループに売却した。16年6月に東京地裁は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で元会長の落合正美氏と元社長の落合善美氏に対し、ともに懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役3年)の判決を言い渡した。
<主なM&A>
年月 内容
2009.1 日活の株式(34.0%)を約24億円で日本テレビ放送網に売却
2009.1 データスタジアムの保有株式(53.12%)を約6億円で博報堂DYメディアパートナーズに売却
2011.7 仏グルノーブル・フットの株式を売却し、撤退
2013.9 インデックスが民事再生法を申請し、セガがスポンサーとなる
2014.4 セガ傘下のインデックスが会社分割。ゲーム事業とその他のコンテンツやソリューション事業を分割し、前者がアトラス(現在はセガゲームスの100%子会社)、後者がインデックス(新設会社)となる。

東芝(15年)


<概要>
 日経ビジネスが子会社の米ウエスチングハウス・エレクトリック社(WH)の巨額損失隠しをスクープしたことで不適切会計が次々と発覚。08年4月-14年12月までの6年9カ月間で利益を過大に計上していた。15年9月に不適切会計を修正した決算書を公表。過年度決算の訂正総額は2248億円に上る。15年7月に西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長が辞任した。

<不適切会計処理の概要>
・インフラ事業における工事進行基準の不適切計上による収益の過大計上と損失を先送り
・映像事業で経費計上時期を先送り(キャリーオーバー)
・パソコン事業の部品取引による利益の水増し
・半導体事業の在庫の評価損計上を先送り
・06年に買収したWH社の巨額損失を隠すため、減損処理の方法を変更。12年度と13年度の2年間で計13億ドル(1156億円)に上った。
主なM&A
年月 内容
2015.12 インドネシアの白物家電工場を中国のスカイワース社へ約30億円で売却
2016.2 パソコン事業を子会社の東芝情報機器と統合
2016.3 医療機器子会社の東芝メディカルシステムズをキヤノンへ約6655億円で売却
2016.3 白物家電の東芝ライフスタイルを中国の美的集団に約537億円で売却
 不祥事M&A、いかがでしたか。業績への外部圧力が引き起こしてしまった悲劇とも言えますが、ガバナンスが機能しなかったのは事実です。なぜ機能しなかったのでしょうか。

 昨年は東芝の粉飾決算を筆頭に、マクドナルドの異物混入トラブル、タカタのエアバック問題、傾斜マンションの三井不動産旭化成建材、東洋ゴムの免震ゴム偽装など、私たちの生活や生命を脅かす出来事がありました。今年に入っても三菱自動車スズキの燃費データ不正問題が明るみになるなど、残念ながら不祥事が後を絶ちませんが、改めるべきを改め、M&Aを契機に企業が失敗から立ち直ることを期待したいものです。
M&A Online編集部2016年03月11日/06月17日
石塚辰八
石塚辰八 Ishizuka Tatsuya
一連の不祥事のすべてをくくることはできないまでも、伝統的なものづくり企業に起きているいくつかの事例は、「ゲームチェンジ」と実態とかい離した「絵に描いた餅の現場への押しつけ」がある。すでに市場からその商品がゲームチェンジを宣告されているにも関わらず、経営陣はそれを認められず(少なくとも自らの在任中は)、こうあるはず・こうあるべき(認められない事実は見たくない)という言動で現場を追い込む。経営陣に原因があり、心の折れた現場に結果が生まれる。

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