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リーダー不在で成功した、北海道東川町のまちづくり

<情報工場 「読学」のススメ#6>『東川スタイル』(玉村雅敏、小島敏明 編著)

「共通の価値基準」醸成が地方創生のカギ


 こうして東川の人々、移住を考えている人などの間に「共通の価値基準(スタンダード)」が醸成されていったのだろう。それは、「自然」に寄り添ってナチュラルに生活すること、「ホンモノ」を志向することなど(『東川スタイル』には全部で40のスタンダードが紹介されている)。2012年ぐらいから相次いで開店した個性的なカフェやショップは、いずれもこうした価値基準をもっているようだ。

 共通の価値基準に惹かれて他の地域から人が集まってくる。そして、その価値基準をコアとしてもっていさえすれば、あとは自分の個性を生かして店づくりをしたりと、いろいろな試みができる。そうして生まれた町全体の多様性は、さらに町の魅力を高める。共通の価値基準がしっかりと固定され、そこに創造の意欲が加われば、発展の“良循環”に入っていけるのだ。東川町の成功がそれを証明している。リーダーがぐいぐい引っ張っらなくても、皆で後ろから同じ方向に押すことで、車が前に進んでいく。

 地方創生がうまくいかないのは、この「共通の価値基準」をおろそかにしてしまうことに原因の一つがあるのではないだろうか。価値基準をシェアするより先に具体的な方法論から、しかも「他所で成功しているから」という理由だけで進めてしまう。しかし、他の地域で成功したからといって、そのまま真似ても成功は難しいのは明白だろう。「共通の価値基準」はその土地ごとに異なるからだ。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『東川スタイル
-人口8000人のまちが共創する未来の価値基準』
玉村 雅敏/小島 敏明 著 産学社
176p 1,800円(税別)
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冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
この原稿を読んで、アメリカのオレゴン州ポートランドを思い出しました。かつてポートランドは単なる田舎町でしたが、今では全米の住みたい街ランキングで上位にランクインするまでになっています。東川とはもちろんアプローチが違いますが、環境に配慮し、自動車よりも自転車、地産地消を意識した街となったポートランドは、そこから発信する文化が世界的に注目を集め、創造的な仕事をする人の移住も増えているとのことです。東川もその文化が注目され、世界から人を呼ぶ街になることを期待したいと思います。

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