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ロボットは人か、道具か、エージェントか

情報ネットワーク法学会のロボット法研究会設立。共生社会をテーマに議論

机上の熟論は法整備の最短ルート


 現在はロボットの普及が途上にあるため、悪用も、その対策も机上の空論の域を出ない。それでも事前に問題点や事例を整理しておくと、最短ルートで法制度を整備できるようになる。小林正啓弁護士は「法が先行して下手な規制を作り、イノベーションを阻害することは絶対に避けなければならない。技術や社会の変化に法が遅れてついて行くのがあるべき姿」という。ドローンは首相官邸の事件をきっかけに短期間で法整備が進んだ。特区での実証と併せてシステムとルールを作り、世界をリードできる可能性もある。

 ただ、ロボット法研究会の議論は技術者にとって極めてネガティブに聞こえてしまう。法学者が問題を提起するたび、技術の未熟さを指摘され、法律にも解決できない課題が積み上げられていくように感じる。法学者にとっては研究テーマの整理に他ならないのだが、法学の専門用語と相まって技術者にとっては辛い時間だ。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)取締役の萩田紀博知能ロボティクス研究所所長は「課題の整理や深掘りは議論が建設的に聞こえにくい。どんな将来像を目指しているのか展望を示しながら議論すべきだ」と指摘する。「インターネットの双方向配信など、アンケートをとりつつ議論を進め、生活者や現場が何を望んでいるか視点を入れた方が良い」という。

 また法学者の技術の理解度は浅い。鉄腕アトムのようなAIを想像する法学者は少なくなく、技術者にとっては過度な期待を解くところから始まる。AI研究者の中にも予算獲得のために誇大な期待を煽っている側面もあり、なにより米国が技術開発で先行しているため将来像の共有が難しい。机上で空論する以前に、問題意識共有で断絶がある。

社会実装からパッケージ輸出へ


 だがロボットやAIの社会実装を進める上で負の側面の議論は避けては通れない。また課題の社会構造上の側面と技術的な側面、その議論が収束するプロセスを整理できれば、海外にも水平展開できる可能性はある。研究会の議論は社会問題をあぶり出すマーケティングに通じる。議論や関係者の折衝が行き詰まってしまうポイントを顕在化させて、そこに技術とルールのパッケージを提案できれば、相手から信頼され、利益も被依存度も大きくなる。

 東京大学の宍戸常寿教授は「日本は戦後、社会システムを輸入して最も成功した国。近年、通信網や新幹線など技術のインフラ輸出は成功例が出てきた。技術と法を組み合わせ、社会システムの輸出国になれるかどうか」と指摘する。研究会の議論は、文理融合の戦略に昇華するのか動向が注目される。
(文=小寺貴之)
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
法学者も技術者も文理融合が必要だと、大きな方向性については一致しています。それでも文理で齟齬が起こるのは議論の例題がチープなためだと思います。わかりやすい例題に落とすと、技術者にとって解決済みの問題か、全く歯が立たない問題のどちらかになっていることが多いです。文理で問題意識が共有できているテーマは、難問が多く、解決策は簡単には出て来ません。技術も法も及ばない課題を、論じるだけではフラストレーションが溜まってしまいます。一方、法学者の中で議論の輪を広げようと、イメージしやすいSFを例示します。その瞬間、技術者からため息が漏れて、心が離れていくようです。技術者や事業家、生活者の側から問題を提起させないと参加意欲が高まりません。法への理解は浅くても、大量のテーマを集めて良問を選び出すことが必要なのだと思います。 (編集局科学技術部 小寺貴之)

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