インバウンド消費、化粧品各社が“爆買い”一辺倒から軌道修正
メーカーによって温度差。国内の個人消費も変調
大手化粧品メーカーの今期見通しで、訪日外国人旅行者(インバウンド)需要の評価が分かれている。資生堂は2016年12月期に前期比80億円増の消費効果を見込む一方で、コーセーは17年3月期に同10億円の減少と見ており対照的だ。化粧品各社の前期は、旺盛なインバウンド消費に支えられ好決算だった。それだけに”爆買い“を支える中国経済の減速や為替の円高による今期業績への影響は大きい。また、国内だけでなく海外事業のかじ取りを見極めるうえでも、転機の時期となりそうだ。
「インバウンドは今年も拡大基調を維持するととらえている」。資生堂の直川紀夫執行役員はこう見積もる。資生堂の16年1―3月期は、中国の春節や花見シーズンで訪日客の需要を取り込み、高価格帯の化粧品ブランド「クレ・ド・ポーボーテ」や「イプサ」が好調だった。このまま「前年を超す売上高が見込める」(直川紀夫執行役員)として、16年12月期のインバウンドの消費効果は、前期比80億円増の340億円を計画する。
対照的なのがコーセーだ。美白化粧品「雪肌精」は訪日客に人気が高く、“爆買い”の対象。16年3月期は3期連続で売上高が過去最高だった。17年3月期も過去最高業績を見通す。だが、インバウンドの消費効果については反転し、前期比10億円減の150億円を計画する。
こうした控えめな計画について同社は、中国経済の減速に加え当局の政策の影響を織り込む。渋澤宏一取締役は「関税強化のチェックで相当やられている。業者が大量に持ち帰るペースがダウンするかもしれない」と予想する。
先手を打ってコーセーは“脱インバウンド依存”の取り組みを進めている。日本のドラッグストアで安売りされていた雪肌精は中国との内外価格差を是正し、新たに日本の百貨店でも販売を始めた。新製品の外箱には中国語ではなく、英語と日本語の2カ国語を記載。2月に北米の百貨店に出店するなど、グローバル化を加速する。
資生堂は中国事業で、下期にマーケティング投資を増やす計画。インバウンド消費はリピーター獲得の商機でもある。訪日客に人気の化粧品ブランドは中国でも販売を伸ばしており、電子商取引(EC)や熱心なファンを囲い込む「ブランドイノベーション」の販売促進費として投下する。
16年に入って為替は円高に振れ、これまでの円安・人民元高を基調とした訪日中国人の増加ペースは、今後鈍化する可能性がある。コーセーの小林一俊社長は「中国以外の人もたくさん日本に来ている。そういう人たちにいかに商品をアピールしていくかが非常に重要」と話す。
また、懸念材料の一つである当局の金融政策について、みずほ証券リテール・事業法人部門投資情報部の三野博且ディレクターは「夏場に人民元切り下げを行えば別だが、サプライズを行う可能性は低い」とみる。事業環境の変化に柔軟に対応できる経営の判断力が、重要さを増すといえそうだ。
(文=山下絵梨)
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資生堂とコーセーでは対照的
「インバウンドは今年も拡大基調を維持するととらえている」。資生堂の直川紀夫執行役員はこう見積もる。資生堂の16年1―3月期は、中国の春節や花見シーズンで訪日客の需要を取り込み、高価格帯の化粧品ブランド「クレ・ド・ポーボーテ」や「イプサ」が好調だった。このまま「前年を超す売上高が見込める」(直川紀夫執行役員)として、16年12月期のインバウンドの消費効果は、前期比80億円増の340億円を計画する。
対照的なのがコーセーだ。美白化粧品「雪肌精」は訪日客に人気が高く、“爆買い”の対象。16年3月期は3期連続で売上高が過去最高だった。17年3月期も過去最高業績を見通す。だが、インバウンドの消費効果については反転し、前期比10億円減の150億円を計画する。
こうした控えめな計画について同社は、中国経済の減速に加え当局の政策の影響を織り込む。渋澤宏一取締役は「関税強化のチェックで相当やられている。業者が大量に持ち帰るペースがダウンするかもしれない」と予想する。
先手を打ってコーセーは“脱インバウンド依存”の取り組みを進めている。日本のドラッグストアで安売りされていた雪肌精は中国との内外価格差を是正し、新たに日本の百貨店でも販売を始めた。新製品の外箱には中国語ではなく、英語と日本語の2カ国語を記載。2月に北米の百貨店に出店するなど、グローバル化を加速する。
資生堂は中国事業で、下期にマーケティング投資を増やす計画。インバウンド消費はリピーター獲得の商機でもある。訪日客に人気の化粧品ブランドは中国でも販売を伸ばしており、電子商取引(EC)や熱心なファンを囲い込む「ブランドイノベーション」の販売促進費として投下する。
16年に入って為替は円高に振れ、これまでの円安・人民元高を基調とした訪日中国人の増加ペースは、今後鈍化する可能性がある。コーセーの小林一俊社長は「中国以外の人もたくさん日本に来ている。そういう人たちにいかに商品をアピールしていくかが非常に重要」と話す。
また、懸念材料の一つである当局の金融政策について、みずほ証券リテール・事業法人部門投資情報部の三野博且ディレクターは「夏場に人民元切り下げを行えば別だが、サプライズを行う可能性は低い」とみる。事業環境の変化に柔軟に対応できる経営の判断力が、重要さを増すといえそうだ。
(文=山下絵梨)
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日刊工業新聞2016年5月19日