ニュースイッチ

マツダに見る「競争しなくてもうまくいく」方法

<情報工場 「読学」のススメ#5>『仕事がうまくいく7つの鉄則』(フェルディナント・ヤマグチ著)

「カテゴリー・デザイン」という視点


 そもそも企業にとって、シェア争いなどの「競争」は必須のものなのだろうか? これについて、シリコンバレーの経営コンサルティング会社「Play Bigger」(https://playbigger.com)の共同創業者たちが著した『Play Bigger : How Pirates, Dreamers, and Innovators Create and Dominate Markets』(2016年6月米国HarperBusinessより刊行予定)が、興味深い視点を提供している。「カテゴリー・デザイン」だ。

 カテゴリー・デザインとは、既存のカテゴリーの中で勝負することを避け、新しいカテゴリーを他社に先駆けてつくり出すという戦略だ。同書では、カテゴリー・デザインによって勝者となった企業を「カテゴリー・キング」と呼び、具体的にはGoogleやFacebook、Amazon、IKEAなどが当てはまるという。

 確かに新しいゲームを自らつくり、対戦相手がいなければ「不戦勝」だ。競争なくして成功できる。マツダは、検索エンジンというカテゴリーをつくった(デザインした)Googleのように、明確なカテゴリーをつくっているわけではない。しかし、たとえば燃費効率向上よりも、操縦安定性や乗り心地など「快適なドライブ」の実現を最優先し徹底的にこだわるマツダの姿勢は、カテゴリー・デザインに通じるものといえる。「乗るのが楽しくなるエンジン車」というカテゴリーで勝者をめざそうとしているように見えるからだ。

 新しいカテゴリーをつくったとしても、それが誰にも受け入れられなければ意味がない。マツダの場合、自らの「軸」や方向性が「独りよがり」にならないように、既存の顧客を言わば“モニター”のように捉えているのではないだろうか。つまり、同社の価値観と方向性に共感しているであろう既存の顧客が満足することを基準にして開発を進め、市場に投入して反応を見る。そしてその結果を前提としてさらなる開発や改善を行う。そうすれば、軸をブラさないまま少しずつ新しい挑戦をしていくことができる。

 あたかも良心的なミュージシャンが、売れ線の楽曲ではなく、自分のやりたい音楽で勝負し、少しずつファンを増やしていくようなあり方が、おそらく今のマツダの理想なのだろう。企業にとって競争は必須ではない。マツダや「カテゴリー・キング」たちが示すように、避ける道はある。むしろ、多くの企業ができるだけ競争を避けようとすることが、社会全体に豊かな価値を生みだすことにつながるのではないか。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『仕事がうまくいく7つの鉄則』
-マツダのクルマはなぜ売れる?
フェルディナント・ヤマグチ 著 日経BP社
248p 1,500円(税別)
ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
マツダのカーラインナップの中でも特にロードスターは熱心なファンを持つ車として知られています。このロードスターのイメージからか、国産自動車メーカーの中でもマツダは「小粒だけれどピリっとしている」印象を持っている人が多いのではないでしょうか。これだけ消費者の好みが多様化・細分化してくると、近い将来、大きなくくりの市場でシェアNo.1を獲得することが企業の成長であるとい価値観が衰退し、マツダの取る路線がメインストリームになり、各企業がカテゴリ―キングになろうと躍起になる日が来るかもしれません。

編集部のおすすめ