アート領域に近づく印刷。「真珠の耳飾りの少女」がビジネスになる時
キヤノン、リコー、富士ゼロックス・・強みの技術を磨く
コピー機で和紙の風合い、古文書復元で貢献
富士ゼロックスは印刷機を使った社会貢献活動として古文書の復元に取り組んでおり、薄い和紙や、厚くぼそぼそした和紙などを使い、傷み具合まで再現している。巻物の紐(ひも)や古文書を入れる外袋の材料まで担当者が1点ずつ探し出し、時には花や草本柄の型押しの紙も社員が手作りする。
「エンジニアがお客さまと顔を合わせるのは、機器にトラブルが起きて、お叱(しか)りを受ける時が大半。喜んでもらえる古文書復元は、私たちにとってもうれしい」と、富士ゼロックスデバイス開発本部イメージングプラットフォーム開発部の木村秀貴主任エンジニアは話す。
復元プロジェクトは、販社の富士ゼロックス京都(京都市中京区)の浜田英敏社長が地元の人から聞いた困り事がきっかけとなって始まった。専門業者に依頼すると、復元の料金は100万円程度必要で、困っていたという。
最初はコピー機での復元は無理だと反対した社員も、依頼主の喜ぶ様子を目の当たりにして積極的になった。復元した日記帳には続きを書き込んだり、かるた競技に使われたりもしている。昔と同じ使い方ができるのは復元だからこそだ。
京都の担当者の熱意に加え、本社を巻き込んで印刷やインク技術を開発することなしに復元することはできなかった。例えば、昔の豪華な書物には藍色や紺の濃い紙に、金や銀の文字が書かれたものもある。だが、通常のトナーは透けるため、濃い色の紙に金で印刷しても文字が沈んでしまう。
(コピー機を使って復元した古文書の一部)
そこで光を反射する材料を配合し、黄色やピンクなど顔料の比率を工夫して表現した。金と銀のトナーは海外からのニーズもあり、一般販売も始まった。
厚手で繊維がスカスカな状態の和紙への印刷も難しかった。というのも、レーザープリンターは、帯電したドラムに付着させたトナーを用紙の裏から電荷をかけて用紙に転写する。
電気的に抵抗体となるスカスカの紙にはトナーが定着しない。そこで、復元作業では紙を湿らせて電気を通し、印刷できるようにした。「和紙を通せるコピー機も実現できれば」(木村主任エンジニア)と期待する。
究極への追求が印刷の可能性を広げ、新しいビジネスの創出につながっている。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2016年5月5日