《「地域点描」中国・四国編》三菱自問題で暗い影

好調だった造船や産業機械は踊り場か

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高水準の操業が続くマツダの宇品工場
 中・四国地区は瀬戸内海沿いを中心に大型の設備と港湾を有した重厚長大型産業が数多く立地し、日本の高度経済成長を支えてきた。例えば造船・重機、自動車、鉄鋼、化学、紙パルプ、繊維などで「超円高」が是正された2013年以降は、造船や産業機械のような、海外勢と直接競合する業界が息を吹き返した。自動車業界も国内事業の採算性を取り戻したが、ここにきて三菱自動車の燃費不正問題による水島製作所(岡山県倉敷市)の生産停止が、暗い影を落としつつある。

紙パ・車が高操業も円高で腰折れ懸念


 中国経済の減速が顕著になった15年秋からは、一部に悪影響も見られるようになった。大企業の好調さが地場資本の中小企業まで波及しきらないうちに再び円高になれば、景気は腰折れ状態になりかねない。情報通信やサービスなど、新しい産業の育成を急ぐ必要もある。


 中国地方の景況は、経済産業省の1―3月の地域経済産業調査では「持ち直している」とし、4四半期連続で据え置いた。日銀の4月の地域経済報告(さくらリポート)も「緩やかに回復している」とし、9四半期連続で据え置いている。

 四国地方では、経産省の地域経済産業調査は2四半期連続で「一部に弱い動きがみられるものの、緩やかに持ち直している」とした。日銀さくらリポートは「緩やかな回復を続けている」と9四半期連続で据え置いた。

 中国地方では設備投資や雇用環境、個人消費の改善が続く一方で、生産は横ばい。四国では個人消費が弱いものの、設備投資や雇用は改善が続く。いずれの地域でも、景気の改善がだらだらと続く状況が長引いていることになる。

 生産の面を見ると、好調なのは四国の紙パルプ。海外からの旅行者による紙おむつなどへの旺盛な需要が続くためだ。中国地方の自動車も高操業状態。マツダの好調によるとみられる。ただ、さくらリポートを見ると「全体として横ばい圏内」(中国地方)、「持ち直しが一服」(四国地方)としており、生産に関しては踊り場にあることがわかる。

 一方で人手不足は続いている。地域の有効求人倍率は、2015年11月に高知県が1倍を超えて以降、中四国9県すべてで求人が求職を上回る状況が続く。直近の2月は中国5県で1・48、四国4県が1・30。中国地方の数値は東海地方と並んでもっとも高い。四国地方の地域経済産業調査は「中小企業では人手不足による事業への影響を懸念している」と指摘する。

 今後は、中国など新興国経済がどうなるかや、円高に振れている為替の状況がカギを握っている。

マツダと三菱自で明暗


 広島地区ではマツダの好調が続いており、関連企業にも好調さが目立つ。フクトクダイヤ(広島県廿日市市)は自動車用パワートレーン部品の特殊な加工機や計測機を手がける。15年秋に一部中国向け商談でキャンセルが出たものの、北米の大型車向け設備などが好調。「16年度いっぱいの受注残がある」(河内恭治社長)。

 溶接治具や金型を手がける今西製作所(広島市東区)も「本年度は新車投入の設備需要が見込めるため、生産設備部門ではすでに目標の6割を確保した」(今西寛文社長)と好調だ。

 一方、お隣の岡山県では三菱自動車の燃費不正問題の影響が雇用や地域経済に広がっている。三菱自は水島製作所(岡山県倉敷市)で軽自動車の生産を担当する従業員約1300人が自宅待機。また岡山県によると、取引先部品メーカー15社が操業を停止、9社が自宅待機している(5月2日現在)。三菱自グループの下請け先は約7800社あるとされ、影響の広がりが懸念される。

 三菱自の相川哲郎社長は生産再開について、「まだ分からないが、停止期間が2ー3カ月に及ぶことは覚悟している」との認識を示している。また、部品メーカーや販売会社への支援についても検討を進めていることを明らかにしている。熊本地震によるサプライチェーンの寸断の影響を含めダブルパンチの状況だ。


(今治造船本社工場の進水式)

造船、受注残も不透明要因多く


 一方造船関連では、受注残は確保しているものの、不透明要因は多い。常石造船(広島県福山市)の河野健二社長は4月下旬に開いた会見で今後の見通しを「厳しい」と説明。15年は、排ガスの窒素酸化物(NOX)3次規制の国際基準適用を前にした駆け込み需要があり、16年はその反動減があるため。

 舶用クレーンの部品を手がけるタステム.(愛媛県新居浜市)では「仕事量は増えている。ただし単価は下落傾向」(高橋政利社長)。タンカー関連機器を手がけるあるメーカーでも「為替は円高に振れており、あまり先行きの話はしたくない」(担当者)という。

 中国経済の減速の影響も一部で見られる。農機・建機向けに鍛造品を納める菊水フォージング(鳥取県米子市)。中国の影響を受けて15年秋から受注が落ちてきたが「4月以降はさらによくない」(森脇孝社長)という。

中小企業は安定せず


 家電や自動車向けの金型を手がける安田精工(鳥取市)は客先の設計部門に入り込み、コストダウンを組み合わせた提案により受注量は確保している。ただ「単価は引き続き厳しい。アベノミクスの恩恵も、中小企業まで浸透していない」(安田和雄社長)。

 本来であれば、大企業の好調さがこれら中堅中小企業に波及し、設備投資や、賃金上昇による個人消費拡大に至ってこそ、アベノミクスの成果は本物だということになる。

 「設備は老朽化してきて、投資したいという意欲はある。しかし国内外の思わぬ事情で受注が左右される」(菊水フォージングの森脇社長)と、経営環境は決して安定していない。政府の15年度補正予算による「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金(ものづくり補助金)」を活用した設備投資の動きも見られるが、補助金による設備投資増はいわば“あげ底”。実のある回復にどうつなげるかは課題だ。
「地域点描」東海・北陸編
「地域点描」近畿編
「地域点描」関東編
「地域点描」北海道・東北編

日刊工業新聞2016年5月5日の記事に加筆

COMMENT

三苫能徳
西部支社
記者

受注は増えても単価は上がらず。この経営環境でさらに人手を増やさなければいけないとなると、賃上げとも絡んで厳しい状況になりますね。

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