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《「地域点描」北海道・東北編》新幹線開通で沸く北海道。東北の復興需要の現状は?

《「地域点描」北海道・東北編》新幹線開通で沸く北海道。東北の復興需要の現状は?

3月に開業した北海道新幹線。北海道経済への波及効果が期待される

 政権の経済政策「アベノミクス」が潮目を迎えている。現在の円高基調や株式相場の変調、株価の頭打ちに加え、財政出動、金融緩和、成長戦略による経済効果が地域を支える中小企業に波及していくとも言い難い状況だ。日本経済を底上げするには地域の活性化が不可欠であり、景況がまだら模様の地域経済は今後どう塗り変わっていくのか。各地域の動向を探る。初回は新幹線開業でにぎわう北海道と、東日本大震災からの復興が進む東北。

北海道、訪日観光客が過去最高


 外国人観光客数が過去最高を記録するなど観光が好調な北海道。北海道新幹線の開業によるプラス効果も見据える。道央地域で集積が進む自動車産業も安定的に推移しており、設備投資に向かう企業の動きもみられる。さらなる道内モノづくりの活性化につながることも期待される。

 北海道経済産業局は4月に発表した管内経済概況で、総括判断を「緩やかに持ち直している」とした。観光や雇用動向といった主要な指標は堅調で、公共工事は減少しているものの、民間設備投資は増加していると分析する。

 観光関連で顕著な伸びをみせるのが外国人観光客数だ。2015年度上期合計で前年同期比38・3%増の90万4200人となった。円安効果や雄大な自然など観光地としての魅力が外国に浸透してきていることなどから一層の増加を見込む。近藤広秋北海道経済部観光局観光戦略グループ主幹は「15年度は年間200万人を突破しそうな勢い」と見ている。横内龍三北海道経済同友会代表幹事は、3月の北海道新幹線開業について「観光客などの呼び込み効果がある」と評価しており、16年度も観光は好調を持続しそうだ。

 道内モノづくり企業では設備投資の動きも出てきている。自動車用クラッチ板製造大手のダイナックス(北海道千歳市)は苫小牧工場の隣接地に工場や物流センター、開発部門の施設を18年度末までに新設する。新たな雇用も200人程度を見込む。「今後、数十年競争力を持つためにできる投資をする」(秋田幸治社長)としている。自動車メーカーなど向けに各種設備の受注生産を手がけるシンセメック(同石狩市)の松本英二会長は「自動車関係は少しずつだが、堅調に伸びている」と話す。大型の機械加工など自動車関係に限らず、対応できるものの幅を広げるため、工場を増設する予定だ。

 西野製作所(同室蘭市)は産業機械部品製造・修理や表面処理加工を手がけている。「苫小牧や道外での自動車関連の仕事は安定している」(西野義人社長)という。今後、加工技術に競争力や付加価値をつけるために、2000万―3000万円の機械設備の導入を検討している。

東北は復興需要に一服感


 東日本大震災からの復興需要に支えられ、堅調に推移してきた東北経済。政府による復興事業はインフラ復旧を進めた「集中復興期間」から「復興・創生期間」にステージを移し、復興需要に一服感が見られるようになった。次の需要をつかみに、各社は技術や商品開発に智恵を絞る。

 東北経済産業局が4月にまとめた2016年2月の東北地域の鉱工業生産指数(速報、2010年=100)は、前月比5・1%減の94・3と2カ月ぶりに低下し、基調判断は「生産は一進一退となっている」に据え置いた。東北財務局が4月に発表した管内経済情勢報告は、総括判断を「一部に弱さがみられるものの、回復しつつある」から「回復しつつある」に表現を変えた。

 東北地域の製造業の現場からは厳しい声も上がる。宮城県商工会連合会副会長を務める小野宏明小野精工(宮城県岩沼市)会長は「企業間の格差が天と地ほどに拡大している」と話す。

 化学分析装置を開発する東北電子産業(仙台市太白区)の山田理恵社長は「昨年暮れあたりから(製造業の)減速を感じる」と指摘する。「今までの延長線上で利益を生むのは難しくなった。新製品開発や海外展開など、新しいことを今まで以上に考えなければならない」(山田社長)。昨年はドイツの展示会に出展するなど海外展開に取り組むも、山田社長は「中小には環境的な難しさもある。挑戦を支援してほしい。地方まで届くように」と力を込める。

 精密加工のティ・ディ・シー(宮城県利府町)の赤羽亮哉会長は「(受注状況は)比較的高水準で推移している」。今春に賃上げを実施したほか、設備更新や新設備導入、研究開発など1億円規模の設備投資をする。不安もある。「大企業の賃上げ状況を見ると、先行きが苦しいと見ているのでは」(赤羽会長)。技術を極めていけば市場はあると、研究・技術開発に注力する。

 地域活性化には、他地域より遅れているインバウンド(訪日外国人)需要の取り込みも欠かせない。5月20―21日にG7仙台財務相・中央銀行総裁会議が仙台市秋保地区で開かれる。同地区では外国人旅行客向けホテルも開業した。会議を起爆剤にしたい。
日刊工業新聞2016年5月2日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
北海道新幹線は交通インフラとしての利便性だけでなく、それ自体を観光資源として、魅力を維持向上できるかが今後大事になると思います。 東北の製造業は復興の段階を脱して、業容拡大に臨む段階に入ったということでしょうか。中小企業は震災と復興の中から、多くのニーズやウォンツを得ているはず。それらを埋もれさせず製品化するための支援体制が必要。

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