《「地域点描」東海・北陸編》熊本地震、トヨタの稼働停止はどう影響するか
回復基調に一服感
モノづくりを経済活動の基盤とする東海・北陸地域。政権の経済政策「アベノミクス」の効果が顕著に表れ、国内でも比較的好況だったが、ここにきて踊り場を迎えている。両地域の経済連合会が会員を対象にしたアンケートからは、足元の景況悪化を感じる企業が増えていることがうかがえる。
円高や中国などの新興国経済の減速による輸出減少の懸念が膨らみ、不安感が増したようだ。もっとも、今夏から来春の間には上向くとの予想が多く、現状は「回復基調だが、一服感がある」(中経連調査部)との認識が根強い。ただ、自動車が産業の主力である東海では、熊本地震が自動車工場の稼働停止を引き起こした問題が、景気の足かせになる可能性がある。
中部経済連合会がまとめた中部圏の景況感調査(「良い」と答えた企業から「悪い」と答えた企業を引いた構成比)では、4―6月の景況判断は1―3月実績に比べて4・6ポイント低下の15・7となった。1―3月の時点で3期連続の悪化であり、4―6月が予想通りに下がれば4期連続の落ち込みとなる。
ただ、1―3月の調査結果を業種別に見ると建設業が大幅に落ち込むかたわら、製造業の業績判断は3期ぶりに改善した。中経連調査部では「良くなった所も悪くなったところもあるので、悲観する状況ではない」としている。雇用判断は全産業において人手不足感が3期連続で上昇していることも、「需要が不足して景気が悪いということではない」との判断を裏付けている。
景気に対する懸念材料を聞いた質問では、「中国経済の先行き」が回答のトップで、次いで「急激な為替変動」となっている。輸出への景気の依存度が高い東海地域において、円高の進行と中国経済減速への不安があることがみてとれる。
北陸経済連合会の調査でも4―9月の全産業の景気判断BSI(「改善」・「悪化」の社数構成比)がマイナス10・1と、2015年10月―16年3月の12・0ポイントが一気にマイナスへ転じる。
現状は観光や小売り関連を中心に北陸新幹線の開業効果が持続し、医薬品や電子部品で高水準の生産が続くが、やはり新興国経済の減速が景況感に悪影響を及ぼしている模様だ。しかし、下降局面が長引くとはみられていない。中経連の景況感調査では7―9月期の景況判断は20・8で再び上向くと予想。北陸経連の調査でも景気回復時期を16年下期とする企業が38・5%で最も多い。
プレス金型の製造とプレス加工を国内と中国で手がける早川工業(岐阜県関市)の大野雅孝社長は「先行きは不透明で国内、中国とも設備投資できる状況にない」と語る。金型事業は現在、自動車部品関連で20型の受注残がある。引き合いもあり堅調だ。プレス加工も底堅い。
しかし、景況感の悪化から夏以降の得意先からの受注量が読めずに、設備を増強するといった攻めの姿勢はとりづらい。そこで大野社長は「従来以上に他社との連携を加速させる」ことで新規顧客を開拓する姿勢を示す。中国では異業種の射出成形加工業との連携も模索。商機の創出を目指す。
景気の先行きが不透明でも、賃上げへの圧力は収まらない。この地域の中小企業経営者の特有の悩みの種だ。「賃上げしないと人が集まらない」と頭を痛めるのは、ネジメーカーの中部製作所(名古屋市熱田区)の大野正博社長。特に愛知県はトヨタ自動車など有力な製造業が多いため、「いいエンジニアが入ってこない」(大野社長)。
東海・北陸地域では近年、有効求人倍率が全国平均を大きく上回る状態にある。15年の地域別にみた有効求人倍率は、東海が1・41倍で全国トップ、北陸が1・37倍で2位となった。景気が悪化すれば中小企業が人材の受け皿になった過去の法則は崩れ、中小企業は景況にかかわらず人集めに苦心し続けている。
大野社長はその背景として、顧客の要求水準の向上を挙げる。例えば、同じ個数の注文でも以前より小分けで納品をする。または「環境負荷物質が含まれていないか保証を添える」(大野社長)など、以前と同じ受注量でも顧客の求めることが増え、その分、必要な人材も増えるという。とはいえ、正社員の賃金を上げれば経営は苦しくなる。パートやシルバー人材の活用で対応している。
工作機械に切削工具を固定するツールホルダーを製造販売するエヌティーツール(愛知県高浜市)では、足元の受注が落ち込んでいるという。ただ、海外の自動車増産などで夏ごろには再び需要が動きだすと期待しており、現在は回復期に攻勢をかけられるように在庫の確保や新製品開発といった「種まきをしている」(成沢保広専務)。
もっとも、自動車産業では、熊本地震によってトヨタ自動車が一時的に工場を停止したことが水を差すとの懸念もある。自動車部品メーカーの首脳は「全面停止ではないので、売り上げの落ち込みは抑えられるが、稼働率が下がるので収益性は落ちる」と漏らす。
(海外の自動車増産などで夏頃には需要が動き出すと期待=エヌティーツールの工場)
「地域点描」近畿編
「地域点描」関東編
「地域点描」北海道・東北編
円高や中国などの新興国経済の減速による輸出減少の懸念が膨らみ、不安感が増したようだ。もっとも、今夏から来春の間には上向くとの予想が多く、現状は「回復基調だが、一服感がある」(中経連調査部)との認識が根強い。ただ、自動車が産業の主力である東海では、熊本地震が自動車工場の稼働停止を引き起こした問題が、景気の足かせになる可能性がある。
製造業の業績判断改善も中国経済を不安視
中部経済連合会がまとめた中部圏の景況感調査(「良い」と答えた企業から「悪い」と答えた企業を引いた構成比)では、4―6月の景況判断は1―3月実績に比べて4・6ポイント低下の15・7となった。1―3月の時点で3期連続の悪化であり、4―6月が予想通りに下がれば4期連続の落ち込みとなる。
ただ、1―3月の調査結果を業種別に見ると建設業が大幅に落ち込むかたわら、製造業の業績判断は3期ぶりに改善した。中経連調査部では「良くなった所も悪くなったところもあるので、悲観する状況ではない」としている。雇用判断は全産業において人手不足感が3期連続で上昇していることも、「需要が不足して景気が悪いということではない」との判断を裏付けている。
景気に対する懸念材料を聞いた質問では、「中国経済の先行き」が回答のトップで、次いで「急激な為替変動」となっている。輸出への景気の依存度が高い東海地域において、円高の進行と中国経済減速への不安があることがみてとれる。
北陸経済連合会の調査でも4―9月の全産業の景気判断BSI(「改善」・「悪化」の社数構成比)がマイナス10・1と、2015年10月―16年3月の12・0ポイントが一気にマイナスへ転じる。
現状は観光や小売り関連を中心に北陸新幹線の開業効果が持続し、医薬品や電子部品で高水準の生産が続くが、やはり新興国経済の減速が景況感に悪影響を及ぼしている模様だ。しかし、下降局面が長引くとはみられていない。中経連の景況感調査では7―9月期の景況判断は20・8で再び上向くと予想。北陸経連の調査でも景気回復時期を16年下期とする企業が38・5%で最も多い。
中小企業に賃上げ圧力も
プレス金型の製造とプレス加工を国内と中国で手がける早川工業(岐阜県関市)の大野雅孝社長は「先行きは不透明で国内、中国とも設備投資できる状況にない」と語る。金型事業は現在、自動車部品関連で20型の受注残がある。引き合いもあり堅調だ。プレス加工も底堅い。
しかし、景況感の悪化から夏以降の得意先からの受注量が読めずに、設備を増強するといった攻めの姿勢はとりづらい。そこで大野社長は「従来以上に他社との連携を加速させる」ことで新規顧客を開拓する姿勢を示す。中国では異業種の射出成形加工業との連携も模索。商機の創出を目指す。
景気の先行きが不透明でも、賃上げへの圧力は収まらない。この地域の中小企業経営者の特有の悩みの種だ。「賃上げしないと人が集まらない」と頭を痛めるのは、ネジメーカーの中部製作所(名古屋市熱田区)の大野正博社長。特に愛知県はトヨタ自動車など有力な製造業が多いため、「いいエンジニアが入ってこない」(大野社長)。
東海・北陸地域では近年、有効求人倍率が全国平均を大きく上回る状態にある。15年の地域別にみた有効求人倍率は、東海が1・41倍で全国トップ、北陸が1・37倍で2位となった。景気が悪化すれば中小企業が人材の受け皿になった過去の法則は崩れ、中小企業は景況にかかわらず人集めに苦心し続けている。
大野社長はその背景として、顧客の要求水準の向上を挙げる。例えば、同じ個数の注文でも以前より小分けで納品をする。または「環境負荷物質が含まれていないか保証を添える」(大野社長)など、以前と同じ受注量でも顧客の求めることが増え、その分、必要な人材も増えるという。とはいえ、正社員の賃金を上げれば経営は苦しくなる。パートやシルバー人材の活用で対応している。
自動車部品「稼働率が下がるので収益性は落ちる」
工作機械に切削工具を固定するツールホルダーを製造販売するエヌティーツール(愛知県高浜市)では、足元の受注が落ち込んでいるという。ただ、海外の自動車増産などで夏ごろには再び需要が動きだすと期待しており、現在は回復期に攻勢をかけられるように在庫の確保や新製品開発といった「種まきをしている」(成沢保広専務)。
もっとも、自動車産業では、熊本地震によってトヨタ自動車が一時的に工場を停止したことが水を差すとの懸念もある。自動車部品メーカーの首脳は「全面停止ではないので、売り上げの落ち込みは抑えられるが、稼働率が下がるので収益性は落ちる」と漏らす。
(海外の自動車増産などで夏頃には需要が動き出すと期待=エヌティーツールの工場)
「地域点描」近畿編
「地域点描」関東編
「地域点描」北海道・東北編
日刊工業新聞2016年5月4日