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スカイランドベンチャーズ木下CEOに聞く、「若い天才」の探し方(後編)

イチローはいつから天才か?
スカイランドベンチャーズ木下CEOに聞く、「若い天才」の探し方(後編)

#HiveShibuyaには偉人伝のマンガが多く置いてある

 主にシード期のスタートアップを支援してきたベンチャーキャピタル、スカイランドベンチャーズ。2015年7月、東京・渋谷にコワーキングスペース「#HiveShibuya」を開設。定期ミーティングやイベントを通じて支援の幅を広げてきた。同社CEOの木下慶彦氏に、コワーキングスペースの効果や、同社が掲げる「若い天才に投資する」ことについて、ざっくばらんに話を伺った。
前編はこちら

日本の投資家は相性チェックに時間がかかる


―プロダクトがあっても、起業への一歩目がなかなか踏み出せない場合もありそうですよね。
 さっきも話したのですが、お金があるってことはすごい重要だと思っていて。でも事業計画がないといけないとか、そういうので投資が先延ばしになることが多い。

 僕が一番尊敬するタイプの投資家は僕がちゃんと提案する前に、投資できるんですかっていうファンドの人。結局それは常に投資できるのかっていうことを考えているってことで。投資家は投資が仕事だと思うので、投資家の仕事は投資の提案を多くすることだと思っています。いまは相性チェックに時間がかかっている気がします。そのへんは日本のベンチャーキャピタル業界っていうのは結構みんな受け身になっているとは思いますけどね。

―投資に結び付くのはどういう場合が多いんですか?
 例えば#HiveShibuyaでイベントを開いて、そのあとに個別でミーティングをします。#HiveShibuyaには月500人くらいビジターで来てくれるんですよね。その中から月50人くらいの人とお会いして個別でミーティングをしています。それで投資するのは月1社です。

 日本で年間100社くらい上場します。その中でベンチャーキャピタルが支援しているのは3〜4割だと思いますよ。ベンチャーキャピタルって日本全国にたくさんあるんですよ。普通の投資パターンでいうと2~3カ月で1社、年間4社くらいが多い方です。うちの場合月1社投資していくと年で12社くらいですね。

―投資を決めるまで、どれくらいの期間をかけますか?
 早いときは1回目のミーテイングで決めるときもあります。毎週水曜日の8時から11時の3時間で「BEATS」というミーティングをやっています。これはマンツーマンで15分のミーティングを10本行うもの。4週から5週やっていると1カ月で40人~50人と会うことになるので、僕はここを投資の入り口にしています。

 1時間やると毎月50人にあうのは大変なので、15分。なんでこうしているのかっていうと、50人とミーティングしても49人断るわけじゃないですか。僕は15分集中して話を聞きます。その場で人によっては投資もしますと言っています。その方が来る人にとってもいいですよね。

 僕のところへは投資して欲しい人も来るし、相談したい人も来るし仲間を探している人も来る。そういう人たちは全部ここに来てもらいます。

 日本のベンチャーキャピタル業界の課題的なところでいくと、ベンチャーキャピタルで投資を決められるパートナーって人数的に少なかったり、忙しかったりするんです。今日ミーティングをオファーしても「じゃあ2週間後に会いましょう」と言われたり。そこから数億円預けてもらえるのって2カ月くらいかかるんですね。

 ここは毎週10スロットあってエントリーを受け付けている。投資先にもここに来てもらってやっていて。わりとクイックに考えていることを共有できるので、「BEATS」をやっています。

学生の認識は変わったか


―やっぱり#HiveShibuyaを初めてから投資のスピードは早くなりました?
 そうですね。ベンチャーキャピタルがやっているコワーキングスペースみたいなものって、日本だとここか、サムライインキュベートがやっているところくらい。みんな儲からないから、やらないんですよね。

 でも、普通の人がやらないようなことをやるのがすごい重要だと思うんです。#HiveShibuyaには毎月500人くらい人が集まっている。例えば、スタートアップで働きたい人に投資先を紹介したりもできるんですよね。僕が投資できるのは毎月1社でも、それ以外の人たちはここを経由して色々なプロジェクトに関わっていって欲しいと思っていて。そのためにも場所を作ったのは重要でした。

―投資以外にも新しいつながりを得られるってことですね。
 ちょうど先日も東大でイベントをしました。東大の新2・3年生が多かったんですけど、彼らの中でベンチャーキャピタルを知っているのは2、3割。もっと学生にベンチャーキャピタルの存在を認識して欲しいんですよね。例えばアメリカのスタンフォード大学なんかは全員ベンチャーキャピタル知っていると思うんですね。日本でも、東大など優秀な若者がいるところでベンチャーキャピタルの認識率を100%にしたい。

―そのあたり、学生の認識は変わってきていると思いますか?
 変わってきているとは思いますけど、まだまだという感じ。ここ1、2年で、大学卒業直前で起業するとか、大学休学して退学して起業するっていうのが増えましたね。

―そういうロールモデルが増えてきたのでしょうか。
 例えばグノシーは東大大学院在学時にスタートしていて、イーストベンチャーも投資している会社なんですけど、そういった企業が成功したのも大きいと思いますね。起業自体がここ2~3年で増えたので。同世代が起業して、20人50人、100人と会社を大きくしていったのを見た人が増えたんですね。

 で、勢いが落ちてきている、これって重要だと思っていて。経済だったり会社がっていう意味でもいいんですけど、思いっきり伸びたり大きく落ち込んだときに人は動くんですね。何かに気づいたりとか。平常運転のときには特に何にもないというか、急速に伸びていたり、急速に落ちているときが感じるものがあるんですね。

 あと、僕は天才に投資をしたいと思っているので本当に普通の人がパッと評価しにくいことをもっと拾えたらいいなと思っています。例えばブログを始めたら、記事のPVとか当然追うじゃないですか?変なこと言いますけど、個人ブログで1記事も1000PVいかないで100記事書いた人って逆にすごいと思うんですよね。

―これも「続ける才能」ということですか?
 心が折れないのもそうですし、例えばこれが先進的すぎるテーマだと文章が良くてもPVが増えないとか、全然あり得ると思い
ます。そういう人に会いたいですよね。

(スカイランドベンチャーズCEOの木下慶彦氏)
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「長く続ける」ことが天才への第一歩。何かを自分で始めてみたい、アイデアを形にしてみたい、という方は水曜日に木下さんのところへ相談に行ってみてはどうでしょうか。

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