丸紅が出荷開始…大手商社相次ぎ参入、「陸上養殖サーモン」の現在地
丸紅が陸上養殖で生産されたサーモンの出荷を開始した。ノルウェーのプロキシマーシーフードが静岡県小山町の陸上養殖施設で育てたサーモンを、独占販売契約に基づき国内に供給する。陸上養殖は水を濾過して再利用するため餌や排せつ物による海洋汚染を防げるほか、サーモンの輸入に伴う二酸化炭素(CO2)排出量の削減にも寄与する。世界人口の増加に伴う食料需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される中、環境に配慮しながら食料安全保障の確保を推進する。(編集委員・田中明夫)
丸紅とプロキシマーは国内の鮮魚店や量販店など向けに2025年末までに約4700トン、フル稼働となる27年には年間約5300トンのサーモンの出荷・販売を計画する。サケ類の陸上養殖施設としては現時点で日本最大級の規模となる。
サーモン生産は水温が低くフィヨルド(峡湾)によって波が穏やかなチリとノルウェーで海上養殖が盛んだが、排せつ物などによる汚染が問題となっている。一方、プロキシマーが手がける閉鎖循環式の陸上養殖では、高い濾過技術で99%超の水を循環利用するため海洋汚染を抑えられる。また赤潮など外的要因を受けにくいため、ワクチンなどの投与も抑制できる。
農林水産省によると23年に日本は約20万トンのサーモンを輸入した一方、国内の漁獲・生産量は約7万トンにとどまり、海外依存度が高い。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「日本の食料自給率の向上に貢献していく」と意気込む。
丸紅は設備投資コストや環境・安全面に配慮した品質を踏まえ、一般的なサーモン価格にプレミアムを付けて流通業者に販売する。今後は「まず国内供給を優先した上で、アジア圏への輸出も検討する」(高祖敬典食品素材部部長)とし、28年以降に工場拡張や海外展開を計画する。
大手商社はサーモンの陸上養殖に注力している。三井物産は子会社のFRDジャパン(さいたま市岩槻区)が千葉県富津市で年間3500トンのサーモンを生産できる設備を26年に稼働させて、27年に出荷を始める計画。排せつ物由来の硝酸を除去する脱窒槽を使って、水槽の1日の水替え量を従来の30分の1に当たる1%に抑えられるため、水温を冷やす電力の節約にも寄与する。
三菱商事はマルハニチロとの共同出資会社を通じて、25年度に富山県入善町で年間生産量が2500トン規模のプラント建設を開始し、27年以降に出荷を始める予定。伊藤忠商事はソウルオブジャパン(東京都港区)が津市で27年から年間1万トン規模で生産予定のサーモンの販売を担う。
農水省によると23年の日本の水産物輸入額2兆160億円のうちサーモンは12・8%を占めてトップだった。世界の人口が増える中、たんぱく源の確保は重要な課題となっており、商社の資本力や販路を生かしつつ、コストやエネルギー利用を抑えた持続的なサプライチェーン(供給網)を構築できるかが注目される。