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【熊本地震】インフラ戻らず不安残し、中堅・中小のモノづくり復旧始まる

生産停止のトヨタは問題究明を優先
【熊本地震】インフラ戻らず不安残し、中堅・中小のモノづくり復旧始まる

土台から落ちた放電加工機(ナカヤマ精密テクニカルセンター)

 熊本・大分の両県では、14日夜の地震発生から今も余震が続く。18日は被害が次々と明らかになるとともに、復旧の動きも始まった。ただ企業の被害は小さくとも従業員が被災し、業務に支障が出ている企業も多い。交通の大動脈である九州自動車道をはじめインフラの復旧もめどが立っていない。大企業より人員が少ない中堅・中小企業は特に、多くの不安を残したままの業務開始となった。

 ナカヤマ精密(大阪市淀川区)は、国内唯一の生産拠点である熊本工場(熊本県西原村)とテクニカルセンター(同菊陽町)の両工場が被災した。坂田和文熊本工場長は「最初の地震で平面研削盤がベースから落ち、放電加工機は加工油がこぼれた。2度目の大揺れで工場建物も大きく被災した」と大きな揺れの連続が被害拡大につながったと説明する。

 中山愼一ナカヤマ精密社長は「何より社員とその家族が最優先。なるべく自宅待機するように指示を出した」と話す。さらに「社員と家族の生活のために見舞金を準備した。出社ができない社員には給与の補償を考えている。エンドユーザーには迷惑を掛けないよう早急に対応する」方針だ。

 機械メーカーのコーヨー(熊本市南区)は、アンカーを打っていなかった機械が50センチ―60センチメートル動いた。岡博司常務は「装置は稼働させないとわからないが、メーカーによる精度調整が必要。復旧には時間がかかる」と今後が見通せない状況。

 ダムや河川用ゲート設備を製造する西田鉄工(熊本県宇土市)は設備に一部被害があったが工場内は致命的な被害はなかった。河上加津也工場長は「1日か2日で復旧したい」と意気込む。

 企業活動を支える従業員の被災は深刻な問題だ。工具商社の米善機工(熊本市中央区)は本社、有明支店(熊本県荒尾市)に大きな被害はなく、18日は業務を再開した。ただ社員の自宅が被災している。髙橋不二夫社長は「避難所や自家用車内で生活している社員もいる」と心配する。

 自動制御装置や通信機を生産する天草池田電機(同上天草市)は天井の一部がはがれ落ちるなど被害が発生した。従業員の一部を避難させており、納期が遅れる見通しだ。

 大分県内は地震の影響はあったものの、通常操業している企業が多い。しかし交通網の寸断によって商品の出荷に影響が予想される。代替ルートの確認を急ぐとともに、運送会社が受け入れ可能かも見極める必要がある。

 本格焼酎メーカーの三和酒類(大分県宇佐市)は大きな被害はなく18日は通常操業した。ただ東九州自動車道の一部が通行止めになっているため、今後の商品出荷に懸念が残る。

 精密金型や試作部品加工を手がけるテオリック(大分県国東市)も運送会社や納品ルートの確認に追われた。「南九州方面以外の地域はほぼ納期通りに納品できそうだ」(同社)という。熊本・大分両県の産業活動の復旧には、生産設備だけでなくサプライチェーンの回復が待たれる。
(文=熊本支局長・勝谷聡、大分支局長・広木竜彦)

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日刊工業新聞2016年4月19日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
メディア的には一刻も早い操業再開を伝えたいし、一方で生産停止の影響を数字などで報道したくなる。ただ現場は、社員やライフラインの状況、サプライチェーンを一つひとつ点検するという地道な作業を続けている。

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