波紋広がる公募増資、関西電力の深慮遠謀
関西電力の公募増資をめぐり、株式市場で波紋が広がっている。関電は13日、公募増資などで資金調達すると発表。26日には発行価格が決定し、調達額は約3800億円になる見込みだ。同社の公募増資は実に42年ぶりとなる。近年は企業の資金調達の多様化が進み、公募で調達するケースは激減する中での今回の資本増強。関電の狙いは何か―。市場の思惑とはかけ離れた関電の深慮遠謀が見て取れる。
久方ぶりの大型増資に対し、拒否感を突きつけたのが株式市場だ。2500円前後で推移していた関電株だが、増資発表後は下落基調に突入。14日は過去最大の下げ幅となる443円安の1954円で取引を終えた。
既存株主にとって「1株あたり利益」が減少する公募増資は「招かれざる客」に過ぎず、新株の発行規模が大きいほど、市場の反発は大きくなるのは必然だ。
株価下落や市場の反発は当然、関電も織り込み済みだったはず。ではなぜ、そこまでのリスクを取りながら、公募増資という手段をあえて選んだのか。そこにはマーケットの理屈とは異なる関電の思惑が見え隠れしている。
今回の増資にあたり、関電が意図したのは「中長期視点」に立った資金調達だ。まだまだ低金利のわが国ながら、今後金利は緩やかに上昇していくことが見込まれている。金利上昇は、資本集約型産業である同社にとって将来リスクとして浮上してくる懸念もある。
9月末時点の同社の有利子負債は4兆5000億円。市場からの資本効率改善要求は年々強まっており、関電では今年4月に中期経営計画を見直した際、初めて「投下資本利益率(ROIC)」の目標数値を掲げた。
貸借対照表(B/S)のコントロールが重視される現在において、デット(借り入れ)に依存し過ぎると、金利高の時代には大きなツケが回ってくる。「金利時代」を見据え、今回はエクイティという直接金融のカードを選び、将来の「負債調達余力」を確保するという関電の判断は一定程度評価できるだろう。
関電の中長期的視点はわが国全体のエネルギー戦略にも配慮している。デジタル時代における大量の電力消費を見据え、安定かつ低廉な電力供給態勢の強化、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)実現に向けた再生可能エネルギーの開発、次世代原発の検討など大型投資がめじろ押しだ。
特に原発に関しては次世代革新炉へのアプローチが進められるほか、焦点になる原発の新増設やリプレースに関しては「当面は関電しかできない」(関係者)との見方が衆目一致するところ。将来に見えてきた巨額な資金需要を前に、その準備段階の一環として公募増資に踏み切ったとも理解できる。
今回の増資は思わぬところに影響が波及した。他の電力各社の株価である。関電の資本増強を受け、「他の電力各社も公募増資に踏み切るのでは」との警戒感から売りが先行し電力株が軒並み急落、“関電ショック”が広がった。
ただ、関電が置かれた環境は他電力とは異なることから、市場の前のめり感を指摘する向きもある。関電の深慮遠謀とは違う形で一人歩きする市場の思惑。市場との対話の難しさを物語っている。