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【熊本・大分地震】慎重を期して行動するトヨタの姿勢が見える

<追記あり>車・半導体に試練。生産正常化まで時間

BCP対策は生かされるか


 周辺地域には部材のサプライヤーも多く、交通網寸断で調達が困難になる事態も想定される。ホンダに2輪用部品を納める九州ショーワ(熊本県宇城市)は焼結部品を生産しており15日から操業を停止。18日も操業しない。人的被害はなかったが生産設備に影響があった模様で、「どれくらいの被害か調査中で結果が判明次第対策を検討する」(同社)。

 エフ・シー・シーの子会社である九州エフ・シー・シー(熊本県宇城市)もクラッチなど一部製品の15日の生産を休止した。工場の建物や設備に大きな被害はなかったが、設備のズレなどを確認、調整するため。操業再開は「供給先と(同社に部品を供給する)サプライヤーの状況を見て判断する」(総務部)という。

 産業界では東日本大震災を機に他の拠点への生産振り替えや、在庫を多めに持つなどの事業継続計画(BCP)対策を進めてきた。具体的影響は各社が調査中だが、これらの対策が生かされることを期待したい。
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異変の歴史を軽んじてはならない


日刊工業新聞2016年4月18日付「産業春秋」


 別府湾(大分県)には、かつて巨大な島が浮かんでいたという。瓜生島(うりりゅうじま)というこの島は1596年の「慶長豊後地震」で海中に没したと伝えられる。

 一夜にして島が沈んだことから”日本のアトランティス“と呼ばれる。イエズス会宣教師ルイス・フロイスの書簡にも存在が記されているが、真偽は今も郷土史家の間で論議されている。ただ当時、大地震と津波で多くの死傷者が出たことは間違いないようだ。

 「九州で大地震は起きない」―。歴史的に地震が少ないこの地方では半ば定説だ。毎年のように起きる台風や土砂災害と比べて地震対策が後手に回っている印象がぬぐえない。

 14日夜の震度7を皮切りに熊本県や大分県などで大型の地震が相次ぎ、多くの命が失われた。交通途絶などで山間に取り残された人の安否が気遣われる。一刻も早い救助を願う。週明け以降、産業界にも影響が広がりそうだ。熊本の周辺には1889年(明治22)にも大地震の記録があるという。

 瓜生島が本当に一夜で消えたかどうかは定かでない。ただ東日本大震災では言い伝えのままに巨大津波が押し寄せ、甚大な被害を出した。異変の歴史を”絵空事“と軽んじてはならないと、あらためて痛感させられる。
日刊工業新聞2016年4月18日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
自動車産業のサプライチェーンは、国内至る所に張り巡らされている。地震が自動車生産活動に影響を及ぼすリスクは常にある。そうは言って、熊本を中心とする今回の大地震が、国内中のトヨタの生産活動へこれ程の影響を及ぼすことには驚きがある。ただし、5年前の東日本大震災で学んだ、二次、三次サプライヤーも含めた調達の複線化は、現在のジャストインタイム生産を持続させることに生きているだろう。それ程長期化せずに、復旧の目処が立つのではないか。生産停止が、国内各社に波及せず、トヨタの主力工場に集中していることから推察するには、部品供給体制の情報確認を進め、それまでまずは工場稼働を停止させるという、慎重を期して行動するトヨタの姿勢が見える。

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