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脱炭素の潮流でもモノづくりの競争力維持、トヨタの工場CO2排出削減戦略

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脱炭素の潮流でもモノづくりの競争力維持、トヨタの工場CO2排出削減戦略

トヨタ本社地区の技術棟に整備したメタネーション設備。コストと小型化が課題となる

低コスト化、安定調達に課題

トヨタ自動車が推進する工場の二酸化炭素(CO2)排出削減戦略。電気と並ぶ主要なエネルギー源であるガスについては水素のほか、メタンを合成する「メタネーション」やバイオガス利活用の取り組みが進む。

メタネーションは工場の排ガスなどからCO2を分離・回収し、水素と反応させることでメタンを作り、再び燃料として燃焼に利用するシステム。排出するCO2が実質ゼロになるだけでなく、配管など既存インフラを利用できるメリットがある。

同社は愛知県豊田市の本社地区の技術棟内にメタネーションの実証ラインを設置。現在、実証試験は完了しており、今後のスケールアップや社内への適用を検討している。

実証ラインはCO2発生装置や脱水機、CO2回収装置、メタン化反応器、CO2・水素をためるタンクなどで構成。これらを一つの部屋にレイアウトしている。同社プラント・環境技術部生産環境室の担当者は「おおむね技術は把握した」と話す。

ただ、実証ラインで生み出せるエネルギー量は数キロワット程度。実導入に向けてはシステムの大型化を抑える工夫や低コスト化といった課題がある。また、状況によっては合成メタンを自社ではなく他社から調達するケースも想定される。今後の市場動向を見据えつつ、より安価で安定して調達する手段として、地域連携による調達や海外調達といった選択肢も幅広く模索する。

一方、バイオガスについては、愛知県知多市の下水汚泥処理で発生したバイオガスを、ガス会社を経由してトヨタの元町工場(愛知県豊田市)に供給。これを原料としてガス改質器で水素を作るシステムを稼働している。

同工場では100台以上導入する燃料電池(FC)フォークリフトの燃料としてバイオガス由来の水素を活用している。電動式のフォークリフトが主流となる中、FC式は充填時間の短さがメリット。「これまで使ってきたガソリンタイプと同じように使える」(プラント・環境技術部生産環境室)という。

グローバル全工場のCO2排出を2035年にカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の状態にし、50年にゼロにする目標を掲げるトヨタ。道のりは長いが、最適なエネルギーを選択する「マルチパスウェイ(全方位戦略)」の考えの下、1歩ずつ着実に成果を積み重ねている。脱炭素の潮流においても、モノづくりの競争力を維持し続ける。(名古屋・川口拓洋)


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日刊工業新聞 2024年10月25日

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