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原料高の価格転嫁進む…上場企業の前3月期、3期連続最高益

SMBC日興調べ 円安・消費回復も追い風

上場企業の2024年3月期決算は当期利益の合計額が48兆円を上回り、3期連続で過去最高を更新する見通しだ。10日までに開示した企業のうち当期損益ベースで増益だった比率は65%を超え、好業績企業の裾野が広がっている。原材料などのコスト増に伴う価格転嫁が進んだ。歴史的な円安やコロナ禍で落ち込んでいた消費の回復も追い風となった。

※自社作成

25年3月期は半導体関連の需要回復が波及する電機や精密などを中心に幅広い業種で増益を見込む。一方で中東情勢の動向が日本経済に与える影響を警戒する声もある。

SMBC日興証券が東証プライム市場の上場企業のうち3月期決算会社の1292社(金融を除く)を対象に集計した。10日時点で全体の56%に当たる720社が発表を終え、24年3月期の当期利益の合計(同)は前期比14%増の33兆5679億円だった。製造業は同24%増の18兆7179億円、非製造業は同4%増の14兆8499億円で、製造業のけん引が顕著だ。

決算未発表企業の市場予想を加えた上場企業全体では同17%増の48兆7970億円となり、3期続けて最高益となる公算が大きい。効率的に稼ぐ力を示す売上高当期利益率も約8・1%と、前期の同7・1%を上回りそうだ。コロナ禍からの回復局面で利益が出やすかった22年3月期に並び、08年のリーマン・ショック以降で最高水準になる。売上高当期利益率は日本企業の自己資本利益率(ROE)を左右する要素の一つで、投資家の注目度が高い。

稼ぐ力が改善した要因の一つは値上げの浸透だ。強みのある製品やサービスなどで原材料などのコスト増を価格転嫁できている企業が目立つ。三菱電機は家庭用や業務用の空調機器の値上げに取り組んだ。値上げ効果は営業利益段階で1160億円と、増益要因で最も大きくなった。三菱重工業もフォークリフトや冷熱機器などの値上げを進め、当期利益は前期より70・2%増えた。

円安も輸出企業を中心に利益を押し上げた。日米金利差を背景に対ドルの平均レートは前期比9円円安の145円となった。大和証券によると対ドルで1円の円安は主要企業の経常利益を約0・4%押し上げる効果がある。輸出の採算が改善したり、外貨建て取引の差益が膨らんだりする企業が増えた。インバウンド(訪日外国人)需要の回復も鉄道や空運、食品など幅広い業種の企業業績に寄与した。

25年3月期当期利益は発表済みの企業予想ベースだと8%の減益になる。例年、日本企業は期初の予想を保守的(低め)に出す傾向があるためと見られ、市場は4期連続の増益を予想する。SMBC日興証券の安田光チーフ株式ストラテジストは「世界景気の緩やかな回復や米国の金融緩和などを背景に設備投資需要が増える可能性が高く、日本企業全体の販売を押し上げる」と予想する。

一方で懸念材料もある。現時点で可能性は低いが「中東情勢の悪化で世界貿易が低下すれば、製造業の景況感の悪化につながる場合がある」(安田氏)とした。

日刊工業新聞 2024年05月14日

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