「日の丸パソコン」統合破談か。VAI0がまず離脱し、富士通と東芝の交渉難航
文=大河原克行(ジャーナリスト)2社連合もメリット少なく迷走へ
注目されていた富士通、東芝、VAIOの3社によるパソコン(PC)事業の統合が白紙に戻る可能性が出てきた。
3月末時点で、VAIOの親会社であるファンドの日本産業パートナーズが、この統合話から離脱。富士通、東芝の2社で話し合いが進められてきた模様だが、統合後の体制づくりなどにおいて、両社の思惑に食い違いが見られ、交渉は暗礁に乗り上げたようだ。
東芝の室町正志社長は、3月に行われた事業方針説明において、「パソコン事業は、他社との再編を検討しており、現在、集中して交渉している段階にある。
だが、方向性は一致しているものの、様々な条件について集約ができていない」とコメント。「私の期待としては、少なくとも2016年度第1四半期(4ー6月)までに決着をつけたいと考えて、交渉をしているところである」と述べた。
だが、VAIOがいち早く抜けたことで、統合話は厳しい状況に陥った。というのも、富士通、東芝に共通しているのは、連結対象から外したいというのが前提。
VAIOが入ることで、バランスよく、両社の思惑を実現する環境が整うことになるが、2社の統合では、どちらかが過半数の株式を持つか、あるいは双方が50%ずつを保有するということになる。話し合いがまとまりにくくなった理由のひとつはここにある。
富士通では、昨年6月に就任した田中新社長が打ち出した事業計画で、中期的に営業利益率10%以上という目標を掲げたが、14年度実績の営業利益率は3.8%。
だが、パソコン事業などのユビキタスソリューションを分離すると、売上高の75%を維持しながら、営業利益率は6.7%にまで上昇。この発言が射程距離の目標として現実味を帯びてくる。つまり、営業利益率10%の達成には、パソコン事業の売却は必須というわけだ。
また、東芝にとっては、赤字体質から抜け出せないパソコン事業の分離は、16年度以降の全社黒字転換という方針のなかでは、避けては通れない取り組み。経営の屋台骨を揺るがした不適切会計処理において、舞台となった事業でもあり、株主をはじめとするステイクホルダーからの信頼を得るためには切り離したいという気持ちも見え隠れする。
実際、発表した16年度の事業計画では、売上高は4兆9000億円、営業利益は1200億円、当期純利益は400億円を目指すとしたが、このなかには、パソコン事業および家電事業の数値は、すでに含まれていない。
このように、富士通、東芝は、もはや連結対象から外すということを前提として交渉を進めてきたことがわかる。
だが、VAIOは立場が違った。ソニーから分離して、付加価値の高い独自性を打ち出しはじめた同社が、富士通、東芝と組み合わせることで、独自性が失われる可能性は捨てきれない。
もちろん、富士通、東芝の調達力を生かしたコスト削減効果や、その体力を活用した海外展開に踏み出すといったメリットもあるだろう。だが、VAIOの独自性が失われること、製造拠点の活用などの観点から、トータルとしてのメリットが薄いと判断。いち早く、この話から降りたとみられる。
今後、富士通と東芝の2社は引き続き交渉を続ける可能性がありそうだが、仮に2社が統合しても、そのメリットは少ない。パソコン事業は、ボリュームを背景にした調達力の高さが、そのままコスト競争力につながるビジネスだ。
<次のページは、「レノボ・NEC連合」との相違点>
3月末時点で、VAIOの親会社であるファンドの日本産業パートナーズが、この統合話から離脱。富士通、東芝の2社で話し合いが進められてきた模様だが、統合後の体制づくりなどにおいて、両社の思惑に食い違いが見られ、交渉は暗礁に乗り上げたようだ。
東芝の室町正志社長は、3月に行われた事業方針説明において、「パソコン事業は、他社との再編を検討しており、現在、集中して交渉している段階にある。
だが、方向性は一致しているものの、様々な条件について集約ができていない」とコメント。「私の期待としては、少なくとも2016年度第1四半期(4ー6月)までに決着をつけたいと考えて、交渉をしているところである」と述べた。
富士通、中計の達成にはPC売却は必須
だが、VAIOがいち早く抜けたことで、統合話は厳しい状況に陥った。というのも、富士通、東芝に共通しているのは、連結対象から外したいというのが前提。
VAIOが入ることで、バランスよく、両社の思惑を実現する環境が整うことになるが、2社の統合では、どちらかが過半数の株式を持つか、あるいは双方が50%ずつを保有するということになる。話し合いがまとまりにくくなった理由のひとつはここにある。
富士通では、昨年6月に就任した田中新社長が打ち出した事業計画で、中期的に営業利益率10%以上という目標を掲げたが、14年度実績の営業利益率は3.8%。
だが、パソコン事業などのユビキタスソリューションを分離すると、売上高の75%を維持しながら、営業利益率は6.7%にまで上昇。この発言が射程距離の目標として現実味を帯びてくる。つまり、営業利益率10%の達成には、パソコン事業の売却は必須というわけだ。
東芝はステークホルダーの信頼回復が最優先
また、東芝にとっては、赤字体質から抜け出せないパソコン事業の分離は、16年度以降の全社黒字転換という方針のなかでは、避けては通れない取り組み。経営の屋台骨を揺るがした不適切会計処理において、舞台となった事業でもあり、株主をはじめとするステイクホルダーからの信頼を得るためには切り離したいという気持ちも見え隠れする。
実際、発表した16年度の事業計画では、売上高は4兆9000億円、営業利益は1200億円、当期純利益は400億円を目指すとしたが、このなかには、パソコン事業および家電事業の数値は、すでに含まれていない。
このように、富士通、東芝は、もはや連結対象から外すということを前提として交渉を進めてきたことがわかる。
VAIOは独自色にこだわる
だが、VAIOは立場が違った。ソニーから分離して、付加価値の高い独自性を打ち出しはじめた同社が、富士通、東芝と組み合わせることで、独自性が失われる可能性は捨てきれない。
もちろん、富士通、東芝の調達力を生かしたコスト削減効果や、その体力を活用した海外展開に踏み出すといったメリットもあるだろう。だが、VAIOの独自性が失われること、製造拠点の活用などの観点から、トータルとしてのメリットが薄いと判断。いち早く、この話から降りたとみられる。
今後、富士通と東芝の2社は引き続き交渉を続ける可能性がありそうだが、仮に2社が統合しても、そのメリットは少ない。パソコン事業は、ボリュームを背景にした調達力の高さが、そのままコスト競争力につながるビジネスだ。
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