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半導体型カーボンナノチューブ、京都工芸繊維大学などが低コストな選択的抽出技術を開発した意義

半導体型カーボンナノチューブ、京都工芸繊維大学などが低コストな選択的抽出技術を開発した意義

選択的抽出剤として試したさまざまなアルキル化セルロース(エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基をそれぞれ置換したセルロース=京都工芸繊維大提供)

産業向け安価で大量に ヘキシルセルロースが最適

透明でフレキシブルなトランジスタやコンピューターなどへの応用が見込まれる半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)。京都工芸繊維大学と奈良先端科学技術大学院大学、産業技術総合研究所の共同チームは、半導体型CNTを低コストかつ選択的に取り出す技術を開発した。半導体型CNTは優れた熱電変換特性も持つことから、廃熱から電力を生み出す環境発電(エネルギーハーべスティング)の普及も進みそうだ。 (藤木信穂)

単層CNTは直径約1ナノメートル(ナノは10億分の1)、長さ数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の炭素原子の円筒構造体。炭素原子の並び方によって「半導体型」や「金属型」に分類され、それぞれ異なる物性を示す。

この単層CNTは半導体型と金属型の混合物として作られる。そのため高性能なトランジスタ材料や、発電材料向けの高機能性インクとして使うには、半導体型CNTだけを高純度、かつ効率的に分離する必要がある。

京都工芸繊維大の野々口斐之准教授、奈良先端大の河合壯教授、産総研の桜井俊介研究チーム長らは、天然の高分子セルロースを原料とする樹脂(アルキル化セルロース)を抽出剤として使い、高品質な半導体型CNTを選択的に分離、抽出できることを実証した。「開発方法では、半導体型CNTを98%程度の高い純度で簡便に抽出でき、高純度化のめども立っている」(野々口准教授)という。

「HC(ヘキシルセルロース)で抽出した半導体型CNT膜は、従来の導電性高分子抽出法(PFO―BPy)による半導体型CNT膜の約3倍の電力因子を示した」(京都工芸繊維大提供)

アルキル基の種類や置換度、分子量などの分子構造が分離効率に与える影響を系統的に調べ、中程度に置換されたヘキシルセルロースが特に半導体型CNTの抽出に適していることを突き止めた。

半導体型CNTの分離はこれまでも粒子のサイズや形状、密度に基づいて分離する密度勾配超遠心分離法や、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー法、導電性高分子抽出法といった複数の技術が提案されている。だが「産業に応用するには、より安価かつ大量に分離する必要があった」と野々口准教授は話す。

開発技術の優位性は、純度の高い抽出に加え、半導体型CNTの分離精製コストを大幅に減らせる点だ。実験では1時間以内で分離試料を調製でき、密度勾配超遠心分離法などの従来法に比べ、工程が短時間かつ低コストな手法という。

さらに成膜したCNTの熱電特性を調べたところ、ヘキシルセルロースで抽出した半導体型CNT膜は、分離精製していないCNTに比べ4倍程度の熱起電力を示した。また、従来の導電性高分子抽出法による半導体型CNT膜に比べ、電力因子は約3倍だった。これらは熱電発電時の発電量に効いてくる。

加えて、「この抽出剤は入手が容易で、安価な原料から調製されている」(同)ことも特徴だ。特に、操作が似ている導電性高分子を使った分離抽出法に対しても、抽出剤をアルキル化セルロースに替えることでコスト削減が見込める。高品質な半導体型CNTの安定供給につながると期待している。


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日刊工業新聞 2024年09月30日

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