理工系女子学生に返済不要の奨学金、ソニーGが創設した狙い
ソニーグループは大学の理工系で学ぶ女子学生を対象に返済不要の奨学金制度を創設し、2024年度の対象者10人を決定した。奨学金の受給にソニーGへの入社は前提としておらず、理工系分野への女性の進出自体を後押しする。ソニーG以外でも理工系の女子学生の支援のため、奨学金制度を設置する企業が増えている。多様性を確保し、企業の持続的成長につなげていく。(編集委員・小川淳)
先日ソニーG本社で開かれた奨学金の授与式には、今回選ばれた10人のうち8人が出席した。学生たちを前に吉田憲一郎会長は「ソニーGにはゲームや音楽、映画など多様な事業があり、これらを通じて世界を変えることに取り組むのがさまざまな属性や経験、専門性を持つ11万人の社員だ」とし、「事業と人の多様性はソニーGが社会に価値をもたらす上で、強みだ」と説明した。
その上で「(今回の取り組みは)多様性が感動の創造につながるという活動の一環で立ち上げた。皆さんの探求と思いが世界を変えるのを楽しみにしている」とエールを送った。
5月から募集を開始し、7月の締め切りまでに全国から300人以上の応募があったという。書類選考後、面接を経て決定した。奨学金の受給者には年間最大120万円を大学院修士課程修了まで最長6年間支給される。また、受給者はソニーGの女性エンジニアとともに、女子中高生と交流して理工系の魅力や楽しさを伝える「バトンプログラム」にも従事する。
受給の決まった学生たちの専攻を見ると工学や情報科学などが多かったが、現在取り組んでいることや将来の夢は多岐にわたっていた。材料工学を学んでいるという学生は、家族が小さいころから車いすを使うのを見てきたため「本体やバッテリーの軽量化を図り、フレキシブルな車いすを作ること」が夢だと話していた。
また、別の学生は高校生のころから「小児がん患者のために自律移動型の点滴スタンドの開発を続けている」と語り、バトンプログラムでは「中高生の皆さんに少しでも工学やテクノロジーに関して興味を持っていただけるように頑張りたい」と抱負を述べていた。
ソニーGによると、女性社員比率は23年度末現在、グローバルで34%、国内だと25・7%にとどまる。男女別割合は公表していないが、女性のエンジニアの割合も決して十分なものではないという。今回の奨学金制度の創設はソニーGの採用とは直接結びつかないものの、理工系で学ぶ女性を経済的に支援することで、次世代の女性エンジニアのなり手自体を増やす狙いがある。また、彼女たちが新しいロールモデルとなり、バトンプログラムを通じて後進の指針となることを期待している。
女性向けの奨学金制度としては、トヨタ自動車グループや三菱重工業などのほか、メルカリの山田進太郎最高経営責任者(CEO)が設立した財団も実施しており、将来の女性エンジニアの育成を支援している。