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“よっちゃんイカ” 製造会社がサステナ経営を推進する理由

“よっちゃんイカ”の愛称で親しまれる、よっちゃん食品工業(山梨県中央市)のロングセラー商品「カットよっちゃん」は、言わずと知れた駄菓子の定番だ。昭和時代から今なお変わらぬ人気商品を手がける同社は、近年のイカの不漁、原材料価格の高騰など取り巻く環境が大きく変化する中で、サステナブル経営をキーワードに生まれ変わりつつある。

「駄菓子珍味No.1を目指して」

創業60周年を超える同社は、「カットよっちゃん」や「タラタラしてんじゃね~よ」などの看板商品を持つ海産物の加工販売を行う国内有数の駄菓子・珍味製造メーカー。「子どもから大人まで、夢とおいしさと健康とユーモアを全国に届ける」という経営理念を掲げ、国内に4工場5営業所を構え、製造から販売まで一貫して手がける。イカや魚肉、ウメ、スモモなど多様な食材を扱っており、商品のラインナップは約100種を数える。
 そのユニークな包装デザインからも分かるように“まねはされても、まねはしない商品開発”がモットーの同社。だが決して順風満帆に進んだわけではなく、絶え間ない試行錯誤があってこそだ。イカを漬け込んで製造する「カットよっちゃん」は、日本人の繊細な味覚に合う深みやコク、まろみを追求し、調味料の調合に工夫を重ねることで、ようやく現在の絶妙な味わいへとたどり着いた。一方で、消費者ニーズをくみ取れずに、涙をのんだことも一度や二度ではなかった。「過去には当社が先行販売し、大規模な設備投資をしながらも、似たような他社製品が大ヒットし、市場から完全撤退したという苦い経験もあります。」(金井芳朗社長)

とりわけ現在、菓子業界は原材料や包装資材費等のコスト高の問題に直面している中、同社はイカの漁獲量低迷により価格が高騰するなど厳しい環境にある。「イカは年に1度しか獲れません。そのため安定供給や品質管理の観点から、相当量の在庫を持っておく必要があるのです」と語る金井社長。イカは市場価格をにらみつつ世界8ヶ国から仕入れ、その上で、個体ごとに異なる水分量や塩分量を細かく調整しながら商品の製造に当たっている。スルメ、ソフトイカ、その他加工品もイカの全身を用いることから、食品廃棄物をほとんど出さず、廃棄物(フードロス)の削減に貢献しているのも同社の特徴だ。2000年には、食品の高い安全性を示すため米国食品医薬品局(FDA)の水産食品HACCP認証を取得した。

イカの全身を使用する商品展開でフードロス削減

イカの加工は、洗浄から塩水や調味料の漬け込み、乾燥、整形などさまざまな工程を経るが、特にイカの殺菌等を行う煮沸工程で大量の電力を消費する。そのため、同社は主力設備である旧式の重油ボイラーをより低消費電力で運用できるガスボイラーに換える等、近年、設備の省エネルギー化を進めてきた。

このように環境対策を行う中で着目したのが、商工中金が提供する「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」だ。

PIFはSDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)に対する企業の前向きな活動を評価し、目標達成に向けてモニタリングしながら伴走支援する融資の枠組み。
 今回、温室効果ガス削減や安全・安心な労働環境の整備、持続可能な食糧生産システムの確保といった取組みを通じ、よっちゃん食品の企業価値をより高めるため、環境面、社会面、経済面でKPI(重要業績評価指標)を設定した。

進化するサステナブル経営

金井社長はPIFに取り組むに当たり、「『環境に優しい』というメッセージを織り交ぜながら商品を拡販し、消費者や取引先、さらには地域社会から必要とされる企業へと成長していきたい」との思いを強くしている。「KPIを設定することで企業としての目標が明確になった。これらを社内で共有することで、従業員のモチベーションや社会貢献に対する意識の向上にもつながる」と強調する。

具体的には、太陽光パネルを2028年までに増設する。2020年9月に本社工場(同)屋根に既に480枚の設置を完了し、総使用電力の10%程度をまかなっているが、今後は再生エネルギー比率をさらに高めていく。また、営業車を含む社用車35台のうち、ハイブリット車を現行の5台から7台に増やす。

加えて、商品を包装する際に使う結束用のバンドを、既存のバンドに比べ二酸化炭素(CO2)排出量の半減が見込めることから、「高機能で低コスト、かつ環境負荷の低い『リサイクルPPバンド』に1年ほどかけて100%切り替える」(金井社長)ことを目指している。

『リサイクルPPバンド』で環境負荷軽減

同時に、労働環境の整備も進める。2023年に63%だった正社員の平均有給休暇取得率を、今後毎年2%以上改善していくほか、地元の山梨県内から新入社員を毎年採用することなども掲げ、地域の雇用にも貢献することとしている。現場にタブレット端末を導入し、帳票をデジタル化して業務効率を高めるなどのデジタル変革(DX)にも着手した。

ペーパーレス化による現場帳票のデジタル化

PIFでは第三者の評価を得た上で、その評価内容が開示される。これに対しては、「対外的に評価された計画を公表することは非常に重要。これを機に、当社のサステナブル経営の取組みを得意先などへ積極的にアピールしたい」と金井社長は意気込む。

さらに「商工中金さんの良さは、どのような環境下においても常に安定した取引をしてくださる点。今回のPIFのように、時代の流れに沿った提案や情報提供をどんどんしていってもらいたい」と今後への期待感もにじませている。

「SDGs推進で地域社会へインパクトを」商工中金 甲府支店 浅野雅斗さん

よっちゃん食品工業 プロジェクトリーダー 秋山 政博さん(左)と商工中金 浅野さん

同社は、HACCP認証の取得や太陽光パネルの設置など、従前より食の安心・安全や環境配慮に取り組まれている企業です。商品ブランドの知名度も高く、山梨県を代表する企業の一社として、当社のサステナブル経営の取組みが地域社会へ与えるインパクトは大きいと考えています。
 同社のSDGsへの取組みを一層進めるため、伴走支援型のPIFを提案し、社長と企業価値を高めるためのディスカッションを重ねました。環境・社会へのインパクトの特定とKPIの設定により、同社の未来に向けた取組みを共に考えていく良い機会になったと思います。今後も同社のサステナブル経営がより強化され、従業員の皆さまの働きがいや社会貢献の意識の向上につながるよう引き続きサポートしていきたいです。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/?utm_source=newswitch&utm_medium=tai-up&utm_campaign=202410
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
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