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「博士号人材」増えず危機感…経産省・文科省が民間活用促進、採用ミスマッチ解消できるか

経済産業省と文部科学省が博士号を取得した人材の民間活用促進に向け、議論を始めた。政府は学士や修士出身者よりも特許出願件数などが多い博士号取得者を、重要なイノベーション創出源ととらえる。しかし、その数は増えておらず、主要国との差は開くばかり。要因の一つは民間で博士人材を活用し切れていないことだ。両省は採用ミスマッチの解消が一つのカギになるとみて、採用環境の整備や支援を進める。(編集委員・政年佐貴恵)

業種で偏りが見られる2022年度の理系博士採用

博士号を取得している従業員の数は、全体の1%未満―。経産省と文科省が8月に開いた博士人材の民間活躍促進に関する検討会の初会合で、経団連がデータを披露した。経産省によれば米国やドイツ、韓国などがこの20年間で博士号取得者数を伸ばしてきたのに対し、日本は横ばいで推移。2021年度時点で人口100万人当たりの数は126人にとどまり、他国と200人ほどの差がついている実態なども示された。

事業変革や新規事業創出にはイノベーションが欠かせず、各国では高度な専門性を持つ博士人材の活用が進む。文科省も40年に人口100万人当たりの博士号取得者を20年比3倍にする目標を掲げるが、達成には社会のニーズに合った博士の育成と、こうした人材が活躍できる環境の整備が必要になる。

課題の一つが、採用のミスマッチだ。学士や修士は一括採用が主流だが、博士は指導教官など知人の紹介で採用に至るケースが多い。採用経路が限られ、文科省によれば博士人材を採用していない企業の52・6%が「マッチングがうまくいかなかった」ことを理由に挙げる。

経産省の調査では博士人材を採用していない企業は全体の76・6%を占め、うち採用したくてもできていない企業は35・6%に上る。経産省は国際競争の激しい業種を中心に「企業の博士人材のニーズは広がりつつある」とし、「博士人材を採りたい企業が採れる環境の整備が必要だ」と指摘する。検討会は24年度末までに、具体的な求人方法など、就職支援の手引きを策定する予定だ。

ただ潜在ニーズの掘り起こしだけでは既存人材の受け皿拡充にとどまり、博士3倍増の目標には足りないと想定される。博士人材を採用したい企業をいかに増やすか、といった観点の施策を打ち出す必要もありそうだ。

日刊工業新聞 2024年9月12日

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