キヤノン・アルバックが狙う…半導体装置で生まれた新たな成長領域
先進後工程に参入
半導体製造装置各社に新たな成長領域が生まれている。先進後工程の「アドバンスドパッケージング」だ。生成人工知能(AI)向けの半導体には回路の微細化に加え、アドバンスドパッケージングの技術が欠かせない。従来の後工程よりも複雑な製造方法が求められる中、前工程の製造技術を応用し、各社が参入を狙う。(小林健人)
生成AI向け需要急増 前工程用装置を応用
アドバンスドパッケージングはチップ同士を横や縦方向に密接に接続して、性能向上を目指す技術のことだ。これまで半導体の性能向上に寄与してきた回路の微細化に限界が見えてきたことから、各社は新たな技術の開発に力を入れる。
需要が急速に増す背景には生成AIがある。AIデータセンター(DC)で使われる米エヌビディアの製品は、画像処理半導体(GPU)とDRAMを複数積層した広帯域メモリー(HBM)を合わせて使う。その際、GPUとHBMを密接に接続するのに微細な配線加工などが必要になる。
これまで回路形成を行う前工程を手がけてきた製造装置各社も照準を定めている。
キヤノンは後工程向けの露光装置でトップシェアを握る。前工程の技術を応用し、2011年から初号機を展開する。東京エレクトロンはウエハー同士を接合するウエハーボンディング装置が好調だ。各社の幹部は「(生成AIの普及が始まった)24年の引き合いは強まっている」と口を揃える。
次を見据えた開発も進む。化学機械研磨(CMP)装置で強みを持つ荏原は縦方向に積層するチップ数が増えることを商機と捉える。今後、半導体デバイスの性能をより高めるためチップの積層が増えると予想されており、将来はチップ同士を直接接続するハイブリッドボンディングが採用される見込みだ。ハイブリッドボンディングではCMPによる平坦化が欠かせない。当然、チップの積層数が増えるほどCMPの出番は増える。同社は顧客での量産適用には「もう少し時間を要する」とするが、「引き合いは強まっている」と話す。
チップレット集積研究 歩留まり向上へ多分野連携
アルバックは東京工業大学が中心となって進める「チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム」に参加し、チップレット技術の研究開発を進める。同コンソーシアムはチップレット同士を直接結び、一つの構造物にする「メタIC」の研究開発を進める。アルバックは強みを持つエッチング装置の技術などを微細なビアの形成に生かす。
現在はビア形成にリソグラフィーを使うが、今後配線の幅と隣り合う配線同士の間隔「ラインアンドスペース」が狭まれば、リソグラフィーだけで対応できなくなる。アルバックの先進技術研究所半導体応用技術研究部第2研究室の森川泰宏室長は「ラインアンドスペースが3マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下になるとリソグラフィーだけで対応することが難しくなる」と話す。そのため前工程で使われるような微細加工技術を応用していく必要がある。
アルバックはコンソーシアムの参加企業とともに、この研究開発を進めており、誘電損失の少ないポリマー材料にエッチング加工を施して微細なビアを形成し、電極を作った。森川室長は「形としてはきれいにできた」とし、電気特性などを調べているという。
同社が持つプラズマ処理装置も先進後工程では有効だ。主な用途はハイブリッドボンディングの前処理でウエハーを活性化させるのに使う。将来的にはチップと配線層はハイブリッドボンディングで接合することを想定し、技術開発を続ける。
また、アルバックはレゾナックが主導して米シリコンバレーに設立した「US―JOINT」にも参加。先進後工程などの技術を必要とする米国の半導体メーカーからの意見を参考に概念実証(PoC)を行う計画だ。電子機器事業部事業企画部の久保純也主事は「顧客に近い場所でPoCを実施し、今後の装置開発に生かしていきたい」と展望を話す。
先進後工程の研究開発は始まったばかりで、技術の方向性は決まっていない。森川室長は「この分野は歩留まりが全て。この課題に貢献するには材料など、さまざまなプレーヤーが集まってあるべき姿を見つけていかないといけない」とコンソーシアムの意義を語る。半導体大手がこぞって先進後工程の研究開発に乗り出している中、半導体製造装置メーカーも研究開発の手は緩めない。
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