ニュースイッチ

地方ホテル再生…森トラスト、富裕層に照準で示す存在感

地方ホテル再生…森トラスト、富裕層に照準で示す存在感

万平ホテル「アルプス館」のイメージ

森トラストが地方で新規ホテル開発を推進している。2023年から大規模改修と改築のため休館していた長野県の「万平ホテル」の一部が8月に先行して開業。今冬には歴史的建造物を保全・活用した長崎県の「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」が開業する予定。インバウンド(訪日外国人)需要の急速な回復や消費単価の増加も追い風となり、富裕層に照準を合わせたホテル&リゾート事業で存在感を一段と高めている。(編集委員・古谷一樹)

「(東京・京都などの)ゴールデンルート以外でも外国人比率が上昇し、成長余力もある」。森トラスト・ホテルズ&リゾーツ(東京都品川区)の白石健太執行役員事業統括部長は、地方のホテルで宿泊客の外国人比率が年々増加している状況をこう説明する。

こうした需要の急拡大の受け皿として同社が開発を進めているのが、地方の高級ホテルだ。23年8月には旧県知事公舎を再生した「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」を奈良県に開業。今冬に開業するホテルインディゴ長崎グラバーストリートは築100年以上の建物を活用、高級ホテルに仕上げた。

いずれも、その地域ならではの「食」や「自然」を唯一無二の観光資源として活用。ユニークで魅力的な滞在体験となるサービスを提供することで、富裕層を中心とするインバウンドを呼び込むのがコンセプトだ。

8月に一部がリニューアルオープンする万平ホテルもこうした考えに沿った施設だ。登録有形文化財のアルプス館の1階に位置するメインダイニングルームとカフェテラスなどに加えて、今回建て替えた愛宕館は全室に温泉を備えている。

インバウンドは中長期的に増加傾向が続くと予想されており、同社のホテル&リゾート事業にとっても追い風となりそうだ。1―6月の訪日客は1778万人と過去最高を更新。この勢いが続けば24年の年間訪日客は3500万人、消費額は8兆円に達すると観光庁は試算する。

外国人旅行者が過去最多のペースで推移する中、地方の観光産業の足かせとなりかねないのが労働力や財源、交通手段の確保だ。それぞれの対策として、外国人の受け入れ体制の構築や宿泊税の導入、ライドシェアの活用促進が期待されており、森トラストの伊達美和子社長は政府が目標に掲げる訪日客6000万人の達成に向けて、「バックキャストでのロードマップ作成が必要」と指摘する。

日刊工業新聞 2024年7月25日

編集部のおすすめ